178 親子関係:距離の置き方(2019年11月号)

てんかんの患者さんとそれを取り巻く家族は互いに心労が絶えない場合が多い。特にてんかん患者さんと母親あるいはてんかん患者さんとその奥様はいつ発作が起こるか心配で、常にストレスに直面している。このことについてはすでにのべた(7:親と子の関係 2003年10月号177:親子の軋轢 「ほめることが肝心、ほめればこころが開かれる」2019年10月号)。

例を示そう
症例1、現在60歳台の男。軽度の知的障害をもつてんかん患者。

子供のころから、夜間、寝ていて手足を硬直させる発作が月2-3回あった。しばらくは両親と本人の3人暮らしだったが、時々かっとして乱暴になることがあった。そのうち両親がなくなり、本人が1人になったので、近所に住む兄とその妻が時々来て世話をすることになった。

患者は昔から、色々なものをポケットにしまい込む癖があった。主に新聞、雑誌類だが、ときにはお菓子類もポケットにしまう。このこだわり行動は、兄嫁の気に入らないところとなり、懸命に説得し、矯正しようと試みたが、本人はさっぱりいうことを聞いてくれなかった。仕方がないので、ついに兄嫁がズボンのポケットを縫い閉じてしまった。それをきっかけに家の中で大騒ぎとなり、やむなく、精神科病院に緊急入院させてもらったことがある。

これはこだわりであり、こだわりは多くは矯正不可能である。ポケットにものを入れるのが悪いということが、彼の理解を超えていたと考える。

症例2.現在20歳台、男。

小3の時から意識消失し、一瞬、ボーっとなる短い発作が月数回あり、時には倒れることもあった。本人は神経質で、人の顔色をうかがいながら生きていくようなところがあった。読み書きが苦手で、軽度の知的障害もある。両親と3人暮らしで、いつも母親心配そうに付き添って来院する。診察場面でしばしば親・子の言い合いが始まる。この家族に対して、出来るだけ本人を自立させるべく、まずは一人で来院させることを提案した。そして母親と本人に互いに「距離感」を置くように勧めた。その後どうにか、親離れ、子離れができ、物流会社に勤め、社宅に独り住まいするようになって生活はようやく軌道に乗った。

症例3 現在50才男

40歳頃よりけいれん発作あり、その後まもなく意識喪失のみの軽い発作が、月数回見られるようになった。発作が起こると、妻が「エイエイヤー」と声をかける。そしてそれを自分でもやれというが本人はそんなことできないという。妻は発作に敏感で不安強く、このことを実家の母、実の娘、その夫にも内緒にしている。私は少なくとも家族にだけは話しておいた方がいいよ、また発作が起きてもただ見守るだけにしてくださいと話した。

家族内でも互いに「適度な距離感」を作ること、「相手の領域に無理に入らないこと」、「血がつながっているが、魂は別」と考えることが大切だと話した。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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