177 親子の軋轢「ほめることが肝心、ほめればこころが開かれる」 (2019年10月号)

てんかん発作を持つ子供と母親の関係は複雑である。親と子供が互いに緊張関係にあり、ストレスが絶えない。時には目に余るようなトラブルが起こることもある。

母親は子供を心配するあまり、細かいことまで注意するが、患者である子供は、逆に反発する場合がおおい。注意が逆効果になっている。これについてはすでに述べさせてもらった(7.親と子の関係 2003年10月号)。てんかんである子供を持つ親の心配は尽きない。発作で倒れ、けがをするのではないか、薬をちゃんと飲んでくれたか、生活が不規則になってはいないか、十分な睡眠がとれているか、心配は尽きず、いつも緊張しており、ストレスも絶えない。

親の考え、心配をどうやったらうまく本人に伝えられるか、ここが思案のしどころである。しかしあまり細かく注意するとてんかんである子供が反発し乱暴になったりすることもある。例を述べよう。

症例.患者は40代女性

幼少時より発作があり、難治に経過した。発作は意識喪失し、動き回る1分ぐらいの短い発作で、週数回ある。成人に達すると幻覚・独語・空笑などが出てきて、注意すると母に乱暴することもあった。
外来にはいつも本人と母親、妹が連れ添ってくる。

診察室に入ると決まって母親が「先生にご挨拶しなさい」というが、本人らの返事はない。母が何回か声をかけると「聞こえているよ」と大声。毎日の生活について聞いてみると「家事は一切やらない、風呂にも自分から入らず、洋服の着替えも自分では一切やらない」という。こちらかの質問にも、本人答えず、母からの返事が来る。そして母「お前に聞いているんだよ、返事しなさい」と大声で注意するが本人は知らん顔。

このような診察風景が数年続いていたが、ある時叱ってもだめなら「ほめてあげてらどうか」という考えにいたった。ひとくさり診察が終わったら最後に「この子は本当に、いい子だよね」と言って、頭を撫でやったらこっちを見てにっこりと笑った。話が通じたらしい。ついでにお母さんにも「お母さんは子育てが上手でよかったね」と言ったら奇妙な顔をしていたが、それを続けているうちのに、お母さんはあまり患者を叱ることはなくなった。会話が進み、笑顔が見られるようになった。
そうこうしているうちに母親は、病気になり同伴できなくなったので、妹が連れてくるようになったが、今度は妹が母親同様、うるさく注意するようになった。妹もほめるようにしたが、妹はそう簡単はいかないようだ。それでもこの方法をとることにしている。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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