176 自己免疫性脳炎—最近増えてきたおかしな脳炎― (2019年8月号)

最近、おかしな脳炎が増えてきた。一般に脳炎は細菌やウイルスが直接脳に感染することによっておこる病気で、急に高熱と共にけいれん発作が頻発し、死亡率も高く、生き残っても知的障害や手足のまひなど重篤な後遺症を起こす恐ろしい病気である。

昔は小児に多かったが、最近、これと似ているがもう少し大人になってから、比較的ゆっくり発症する「自己免疫脳炎」というのが見られるようになった。この病気は小児の脳炎と似ているが、主に働き盛りの成人に発症し、進行もややゆっくりしているのが特徴である。けいれん発作頻発や意識障害が特徴という点では同じである。これまで元気だった人が、突然、てんかん発作を繰り返し、意識障害が遷延し、回復しても記憶障害などを残すなど厄介な病気でもある。

「自己免疫疾患」というのは、外部から、細菌などが入ると、それをいち早く察知して病気になるのを防いでくれるはずの、自分の体に既に備わっている「抗体抗体」が、細菌などの敵と間違って、自分の体を攻撃するという、おかしな病因にある。病気が発症するのを防いでくれるはずの「免疫」がなぜ自分の脳を敵と見誤って、攻撃してしまうのか、その機序はきわめて複雑であるが、簡単に言うと免疫細胞に変化が起こり敵・味方の区別がつかなくなることにある。 

このような「自己免疫疾患」は多数あり、例をあげるときりがないほどだが、重症筋無力症、バセドウ病、関節リュウマチ、糖尿病Ⅰ型なども同様な疾患である。

症例を挙げる。
症例1:30歳台、女性 診断:自己免疫性辺縁系脳炎

1年ほど前、急に高熱があり、けいれん発作重積が数日も続き、意識障害が1か月続いた。その後ようやく、意識は改善し、精神・身体的にほぼ正常まで回復したが、後遺症として、難治なてんかん発作を残した。

発作
(1)小さい発作:ぼんやりして意識を喪失するが倒れない。毎日1-3回ある。
(2)全身のけいれん、多くは左を向いて眼球上転し全身を硬直させる。頻度は週1回。

脳波には異常があり、両側(より右側優位)の側頭部に棘波が頻回に出現した。

症例2:40歳台の女性 診断:自己免疫性非辺縁系脳炎

10年ほど前の出来事であるが、ある日急に意識障害が発生し、2か月間、続いたがほぼ完全に回復した。その後遺症として、てんかん発作、記憶障害をのこした。
発作(1)軽い発作:意識が喪失し、動作がとまるのみの発作、毎日数回。
発作(2)強い発作:突然倒れ、意識を失い、手足伸展硬直させる発作。頻度月1回、後遺症として記憶障害を残した。すごく記憶悪く、物事覚えられなと訴えるが、記憶力テストでは、ほぼ正常範囲。脳波では左に鋭波が頻発していた。

味方を敵と間違って攻撃するのは本当に困る。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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