123.発作の裏にある脳の病気:その12 舞踏病とてんかん「発作性運動誘発舞踏アテトーゼ(PKC)」について(2013年6月号)

舞踏病という奇妙な名前の病気がある。ダンスを踊るように体や手足を動かす病気である。ダンスは自分が意識し意図的に体を動かすしするのだが、舞踏病は体が勝手に動き回り自分では制御出来ない不随運動である。不随運動には、手足の震え(振戦)、踊るような動き(舞踏病)、手足が捻じれる動き(アテトーゼ)、体の軸が捻じれゆがむ(ジストニー)などがあるが、いずれも脳の深い中心部にある錐体外路系の厄介な病気であり、多くは日中覚醒時に持続的に見られ、精神的緊張で増悪する。眠っている時は消える。

この舞踏病様の動きが発作的に来て、一瞬で終わる病気がある。発作間歇時には不随運動はなく、普通に人と変わりがない。これを「発作性運動誘発舞踏アテトーゼ(PKC))という。そんなに多い病気ではないが必ずしも「てんかん」とは言えない側面もあり、脳の病態がまだ十分に分っていない。

PKCの特徴は発作が急激な動きによって誘発されることである。例えば「座位から急に立ちあがったとき」、「歩き、走り始めた時」、「ベットでの寝返り」、「四肢関節の伸展や屈曲」などが誘発因子であり、その他恐怖や驚愕、緊張などで起こることもある。多くは1分以内の手足が捻じれるような不随運動であり、倒れることはない。意識は清明である。

家系に同じ病気がみられることもあり、通常抗てんかん薬で発作が有効である。脳波に異常がない場合が多い。

私が経験した症例を述べよう。

症例1 40歳 女

15歳の頃より急に走ったときに、左足がねじれ、さらに左手、顔がねじれる数10秒の発作が起こるようになった。この発作は急に動きだした時に限っておきた。例えば人から呼ばれて急に立ち上がった時、急に走りだした時などに起こる。弱い時は左足がねじれるのみで数秒で終わるが、強い時は左足から左手、顔、さらに右手がねじれるように突っ張る、数10秒の発作である。

最初は月1回ぐらいの頻度であったが、そのうちに毎日数回に増えた。MRI,脳波に異常がなく、テグレトールで発作は完全に抑制された。

症例2 30歳 男

11歳頃より立ちあがって動こうとする瞬間に足が突っ張りねじれる数秒間の短い発作が見られるようになった。発作は左足だったり右足だったりする。最初は急に動き出した時のみに限って、年に1-2回の頻度であったが、数年後からはほとんど毎日数回と多くなった。

そして発作の3割は何の誘因もなく起こるようになった。様々な抗てんかん薬を試みたが無効で今でも毎日数回起こる。難治な経過をたどっている。脳波には異常がないので、てんかんとしては疑問がある。

このように簡単に治る症例もあるが、難治で日常生活に支障をきたす例もある。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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