175 出産とてんかん―分娩時のてんかん発作について―(2019年6月号) 

てんかん患者の妊娠と出産・育児に際して色々な心配事が沢山ある。

(1)妊娠すると発作が悪くなるのではないか、
(2)母体の発作は胎児に危険ではないか、
(3)生まれる子供に何らかの奇形はないか、
(4)生まれた子供の発達に問題はないか、
(5)生まれた子供も同じようにてんかんになるんではないか、
(6)分娩中にてんかん発作は起こらないか、起きたらどうするか、
(7)子供を抱いていて発作を起こしたら子供にけがはないか、

など考えたらきりがない。
これらについては過去にすでに述べた (100.てんかん最前線:てんかんを持つ妊娠可能年齢の女性に対する治療ガイドライン–日本てんかん学会の取り組み– その1(2011年7月号)その2(20011年8月号)
 
現在わかっていることは、(3)の胎児の奇形については、ある種の抗てんかん薬(エトスクシミドやバルプロ酸)が関与すること、(4)の生まれた子供の発達に抗てんかん薬(バルプロ酸)が関与する可能性があるということが分かっている。

また私の経験では、(1)の妊娠中に発作が悪化することはほとんどないし、また(2)の母体の発作は胎児にはあまり影響はないと思ってよい。
                        
分娩中または分娩直後の発作についての報告はあまりない。出産・分娩中に発作が起こるかもしれないという恐れは、特にそれに立ち会う産婦人科医の危惧するところでもある。確かに分娩に際して、てんかん発作を起こす症例もあり、その危惧は分からないでもない。そのためてんかん患者の分娩は、リスク分娩と考えられ、緊急時に対応できる神経内科医や外科医がいない病院では出産を断れる場合がある。

症例を述べる。
大学卒業した30台の女性
15歳時に一瞬びくっとするミオクロニー発作が半年に1回ぐらいにあり、21歳から数年に1回の全身のけいれん発作あった。結婚してしばらく子供が生まれなかったので不妊クリニック通所まもなく妊娠し、無事第1子を出産した。2年後第2子を出産した。夜中7時間ごろ陣痛開始2時間で出産した。翌朝、母親学級に行こうとして、移動中に一瞬話が分からくなり、「おかしいな」と思ったのは分かっているがそのあと意識をうしなった。気が付いたら処置室に移されており、脳外科医がよばれていた。数年ぶりの発作であった

症例2.40歳代の女性
20歳台でウイルス性脳炎に罹患しその後てんかん発作があり、同時にその5-6年前からの記憶を失った。その後意識消失発作が月1回、けいれんで倒れる発作は年に1∸2回出るようになった。数年後結婚、人工授精の末、第1子分娩、無事安産であった。3年後第2子を分娩した。分娩20分後、分娩台の上で発作。生まれたばかりの子供を「ちょっと見てください」と言われ「はい」と返事したのは覚えているがその後意識消失して痙攣があり、気がついたらCT室だった。脳外科医が緊急に呼ばれていた。

一般に分娩中は緊張しているので発作は起こらない。子供が生まれ陣痛から解放され、やれやれ無事に済んだと安心すると、発作は起こりやすくなる。仮に発作が起きても多くは1回だけで終わるから見守るだけでよい。あるいは発作が怖いなら、分娩直後にニトラゼパムなどの頓服薬を1錠のませるだけでよいと私は考える。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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