100.てんかん最前線:てんかんを持つ妊娠可能年齢の女性に対する治療ガイドライン–日本てんかん学会の取り組み– その1(2011年7月号)

抗てんかん薬を服薬しているてんかん患者さんが妊娠した場合は特別な注意が必要である。そのような方に対して日本てんかん学会は治療のガイドラインを作成した。

私の経験では服薬中のてんかん患者さんに奇形児が生まれる可能性が高いというかなり誇張した情報が一般に流れているようで、そのため妊娠・出産を断念したり、服薬を中止する例が増えてきているようである。産婦人科の医師に聞いたら妊娠は止めた方がいいとか、薬は飲まない方がいいと言われたとの話はよく聞く。またてんかん患者さんの出産は「高リスク出産」ということで、敬遠する産院も増えている。

十分な注意を払っておれば出産はさほど危険ではない。実際私の外来に通院している患者さんで30数例近くが出産しているが奇形児はまだ1例もない。したがって私はてんかんの患者さんでも勇気をもって子供をつくってもいいと説明している。

実例をあげよう。現在30歳後半の女性である。幼少時熱性けいれんが5-6 回あった。22歳結婚、26歳風呂場で倒れ、それ以来3カ月に1回の全身けいれん発作と、倒れないが意識が途絶えうろうろ歩きまわる発作が月数回みられるようになった。脳波で側頭部に発作波がみられ側頭葉てんかんと診断した。当時フェノバール90mg, バルプロ酸を1000mg服用していたが発作は止まらず、側頭葉てんかんの第1選択薬であるテグレトールを使ったところ300mgで発作を完全に抑制できた。子供が欲しいというので近医の産婦人科医の指導の下、排卵誘発剤を試み28歳時に無事双生児を出産した。32歳にて第3子を出産、さらに昨年再び双生児を出産、5人の子持ちとなった。 母子とも健在である。子供に奇形はない。テグレトールはバルプロ酸とフェノバールの併用よりも奇形の確率が低く安全な薬である。最後の出産後赤ちゃんを抱いていた時、数年ぶりで発作を起こし赤ちゃんを落とした。夫の親はびっくりしたが子供に怪我はなかった。

別の例を示そう。20歳後半の女性である。側頭葉てんかんで、意識消失のみの軽い発作が月数回あった。テグレトール400mgで発作をほぼ完全に抑制し得た。妊娠したので産婦人科の診察を受けたが、抗てんかん薬は奇形の可能性があるというので服薬をやめるように指示された。患者は発作がしばらくなかったので薬をやめてもいいと考え中止した。その結果、意識減損の発作が頻発し、緊急に来院した。服薬の重要性、奇形の確率がさほど高くないことを説明し、服薬を再開し先日無事出産した。母子とも健康である。

このようにてんかんを持つ人もある程度の注意を払えば無事子供をつくることができる。

しかしてんかんを持つ女性が子供を持つには正しい注意が必要である。奇形の可能性のみならず、出産、授乳、育児にも配慮が必要である。

このことについて日本てんかん学会はガイドラインを発表したので、これに沿って次回に解説する。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

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