101.てんかん最前線:てんかんを持つ妊娠可能年齢の女性に対する治療ガイドライン –日本てんかん学会の取り組み–  その2 (2011年8月号)

前回は女性てんかん患者が子供を産むことに関して私見を述べた。最近、挙児に対して臆病になっているきらいがあるが、十分な注意を払っておれば出産はさほど危険ではない。奇形の確率もさほど高いものではない。

奇形の種類は、口唇裂(上唇が裂けている)、口蓋裂、心奇形が最も多い。小さな奇形については抗てんかん薬との特異的な関連は疑わしい。

それでは注意しなければならない点はどのようなことであろうか。日本てんかん学会のとり組みと、ガイドラインを紹介しよう。

1.服薬中の女性てんかん患者に奇形児発生率はどれくらいか:奇形が発生する可能性は妊娠の最初の3か月間であり、この間抗てんかん薬を服用していたすべての患者について調べた結果、平均奇形頻度は11.1%(多剤併用者を含む、一般人口では4.8%)である。一般人口の倍以上で、10人に1人強とになる。

2. どのような薬剤が危険か:単剤投与ではプリミドン14.3%、バルプロ酸11.1%、フェニトイン9.1%、カルバマゼピン5.7%、フェノバール5.1%である。

3. 2剤の併用では奇形発生率は高くなる。特にバルプロ酸+テグレトール、フェニトイン+プリミドン+フェノバールの組み合わせは悪い。

4. 新しい抗てんかん薬(ガバペン、トピナ、ラミクタール、イーケプラ)についての指針はこのガイドラインにはないが、最近発表されたデンマーク国内での調査(JAMA 2011年5月18発表)では、奇形発生率は3.2%であり、一般人口の2.4%と有意な差はなかったという。新薬は妊娠には安全である。

胎児に奇形を避けるためには

1. 抗てんかん薬は必要最低限度にする。できるだけ単剤(1種類)に整理する。

2. バルプロ酸(デパケン、バレリン)は徐放剤(デパケンRなど)を使い、その量は1日1000㎎以下(血中濃度70μg以下)とする。カルバマゼピン(テグレトール)の量は400㎎以下。フェニトイン(アレビアチン、ヒダントール)は200㎎以下。プリミドンは400㎎以下に抑える。

3. 2剤以上の場合、避けるべき組み合わせはフェノバールとテグレトールの併用、あるいはフェニトインとテグレトールの併用、あるいはバルプロ酸(デパケン、バレリン)とテグレトールの併用である。

4. 葉酸の補充を行う。

以上の諸点について注意するなら安全な挙児が可能である。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)