104.てんかん最前線――新皮質てんかんの外科治療ガイドライン –日本てんかん学会の取り組み– (2011年11月号)

前回はてんかん外科の適応に関する指針(日本てんかん学会の取り組み)について述べた。ここでは外科手術が比較的容易で術後の発作抑制率が最もよい内側側頭葉てんかんを中心に述べてある。

内側側頭葉は旧皮質といい、発生学的に大変古い脳である。人間以外の哺乳類では比較的よく発達しており、感情と記憶をつかさどる中枢でもある。動物では危険を察知して警戒感と緊張を高め、過去の記憶と照らし合わせて、逃げるか攻撃するかを瞬時に選ばなければならないが、この機能を受け持つのが旧皮質である。

内側側頭葉は左右に2つあり、その一側を切除しても大きな障害は残らない。またどういうわけか分らないがこの場所は最もてんかん発作を起こしやすい部分でもある。成人、特に高齢者のてんかんの約半数はこの部に焦点を持つ側頭葉てんかんである。外科手術によって80-90%の症例でそれまで治らなかった発作が完全消失、あるいは大いに改善する。MRIで左右どちらかの海馬に硬化が証明され、脳波でその部に一致したてんかん焦点が証明されれば、すぐにでも手術の対象となりうる。切り取る範囲も決まっており、難しい検査は省略できる。

一方旧皮質と対比するのが新皮質である。新皮質は発生学的に新しい脳で、大脳の表面を覆い尽くしている。特に人間では前頭葉が発達しており、脳の前半を広く占領している。そしてそこは高次脳機能(知能、認識、注意、判断、運動、感覚)をつかさどる場所でもある。ここのてんかん外科は慎重を要する。術後の成績も側頭葉てんかんほど良くはない。

まずてんかん焦点を正確に同定しなければならない。できれば発作時脳波を記録して焦点を確認する必要がある。

(1)MRI, SPECT, PET, 脳磁図など各種の精密な検査を行い病巣が脳のどこにあるかを推定する。仮にMRIで右の脳前頭葉に器質的病巣が見つかったからといって、必ずしもそこからてんかん発作が始まるとは限らない。そこからちょっと離れた場所にてんかん焦点があるのかもしれない。SPECTは発作間歇期と発作時の両方の記録が望ましい。発作間歇期にはその部の脳代謝が低下しており、発作時には亢進しているので焦点の診断に役立つ。

(2)最終的には頭蓋骨を開いて疑わしい部位に脳波電極(硬膜下電極)を装着し、必要なら深部にも電極を植え込み、1週間ほど連続して脳波を記録して、少なくとも複数回の発作時脳波を記録することが必要になってくる。発作の焦点が二つ以上ある場合は手術の適応にならない。

このようにして手術可能かどうか厳密な検査が必要なのが新皮質に焦点をもつてんかんである。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)