103.てんかん外科の適応に関する指針 –日本てんかん学会の取り組み– (2011年10月号)

近年てんかん外科は飛躍的に発展した。これまで薬物療法で治らなかった部分てんかんでも外科手術によって発作が完全に抑制できた例も多くなった。

手術が可能になった理由は

(1) CT、MRI、SPECT、PET、MEGなどの画像診断が進み脳の障害部位が明瞭に捉えられるようになったこと、

(2) 頭蓋内に電極を挿入して直接脳表面から脳波記録が可能になり、発作起始部がより正確に捉えられるようになったことなどがあげられる。

手術症例数が増え、手術の術式も多様になってきた。しかしすべての難治てんかんが手術可能であるとは限らない。なにせ直接脳を切るわけだからミスは許されない。手術によってどの程度発作が改善されるか、手術による2次障害の可能性はないかなどについてもよく理解し、もっとも良い方法を選ばなければならない。どのようなてんかん患者がどのような手術をした方がいいかが重要であり、現在この点についてかなりはっきりした基準が分ってきた。

最終的なゴールは生活の質の向上である。この目的のため日本てんかん学会は「てんかん外科に関する指針」を発表した。その要点を述べる。

手術が可能なてんかんは次の5つのグル―プに分けられる。

(1) 内側側頭葉てんかん:海馬硬化などの病変が1側の側頭葉に限られる側頭葉てんかんで、術後の成績が最も良い。60-70%の症例で、それまで治らなかった発作が完全に消失する。扁桃体海馬切除術が後遺症もなく効果的である。

(2) 器質性病変が検出された部分てんかん:皮質形成異常などの局在性脳病変が認められる新皮質てんかんで、術後の成績は内側側頭葉てんかんより低い。てんかん焦点がどこにあるか、切除可能な場所か、後遺症を残さず完全にとれる場所かどうかが決め手となる。そのためより詳細な検査が必要である。

(3) 器質性病変をみとめない部分てんかん:発作焦点を正確に同定するため硬膜下電極を留置して頭蓋内脳波記録が必要となる。発作消失率は50%に満たない。

(4) 一側半球の広範な病変による部分てんかん:小児の難治てんかん(ラスムッセン症候群、スタージ‐ウエバー症候群など)で片麻痺を持つようなケースである。早期の手術が望まれる。6-10歳以内に手術すればその成績は70%を超える。

(5) 失立発作を持つ難治てんかん:レンノックス・ガストー症候群のような難治小児てんかんであり、瞬間的倒れる発作に効果がある。脳梁離断術により60%の症例で発作回数が50%以下に抑えられる。

内側側頭葉てんかんは最も成績がよく、後遺症を残さず完全にとれる場所かどうかで成績が決まる。私は薬物で2年以上発作が治まらない例は積極的に手術を勧めている。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

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