174 てんかん患者の不慮の死亡―お風呂が危ない―(2019年4月号)

大変不幸な出来事だがてんかん患者さんが、てんかん発作以外の病気で、または不慮の事故でお亡くなりになられるかたがいる。これについてはすでに述べたが(110.突然の不慮の事故、2012.5月号)、最近そのような事故にであったので、ここに再びてんかん患者さんの突然死について考えてみたい。

私が平成14年10月にこのクリニックを立ち上げてから、突然何らかの病気を併発して、あるいは突然の事故で亡くなった患者さんは合計30例に上る。私が診察しているてんかん患者総数は(2013年8月1日からから3か月間の調査)1243例であり、年に2人ぐらいの突然死があるのでこれは無視できない数である。

いちばん多いのは入浴中の事故死で9例がそれに該当した。次に多いのは原因不明の突然死で7例がこれに該当する。前日まで元気だったのが朝方死亡していたなどというのがそれで、原因不明な突然死(SUDEP)といわれている。次に多いのは自殺5例である。うつ病など何らかの精神症状を持つ方で、現実に適応できない方である。発作で怪我をして亡くなられた方は3例、交通事故は1例、急病疾患(肺炎、胃腸障害など)を併発したのが4例である。

ここで一番多いのは、入浴中の溺死であり、これは避けることができる事故であり、皆様方の注意を喚起したい。事例を述べる。

症例1:死亡時40台の女性

生後間もなく髄膜炎に罹患し、軽い知的障害とてんかんを併発した。発作は軽い場合は意識が短時間消失し、この間無意味な動作をする側頭葉てんかん、複雑部分発作で、その頻度は月で1-2回であり、また倒れる大きな発作も年に1回ぐらいはみられた。
脳波では両側側頭部に徐波があり、発作波も左側頭部あり、側頭葉てんかんの診断に合致した。
ある朝、浴槽内で死亡しているのが発見された。

症例2:死亡時20歳台後半の男性

10歳時けいれん発作があり、その後年1回程度の同様な発作が数年続いたが、パルプロ酸ナトリウムで発作は完全に抑えられ、その後5年間、発作は一度もなく安心していた。初期には脳波は全般性の発作波があり、特発性全般てんかんと診断された。一般にこのタイプのてんかんは知的障害などの合併症もなく、治り易すいタイプのてんかんとされている。脳波も正常化して、専門学校を卒業して、仕事に励んでいた青年である。しかしある朝、公衆浴場で沈んでいたのが発見された。痛ましい。警察の病理解剖で溺死と判定された。

東京都23区(平成29年度)では入浴中の死亡は1479例であった。年齢別にみると断然高齢者におおく、そのほとんどは心筋梗塞や脳出血が原因である。大阪府の平成6年の統計では入浴中の変死は547名で70歳以上が71.8% 50歳未満は32例(5.9%)であった。この32人の内てんかんの病名を持つのは19例で、実際に入浴中の発作が死因と判断されたのは14例であった。

てんかん発作による入浴中の死亡は確かに少ないが決して無視できる数ではない。私の経験では発作が毎日あるような重篤なケースは入浴中の事故は少なく、発作が月1回程度のてんかん患者さんに多い。まれには症例2で示した通り、5年間発作がなくても入浴中の死亡がありうるので安心できない。私はてんかん患者さんにはできるだけシャワー浴を勧めている。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする