107.アメリカより最新情報――エイズとてんかん(2012年2月号)

先日アメリカの神経学会より緊急メールが届いた。アメリカ神経学会に属する全会員に送られた「エイズとてんかん」についての最新情報である。論文が出版される前にメールが届き、その速さにいかにもアメリカらしいと思った。

この論文は「エイズ患者にどのような抗てんかん薬を選ぶか、事実に基づくガイドライン」と題してアメリカ神経学会と国際抗てんかん連盟の委員会報告である。

これによるとエイズにてんかんが発症する確率は11%であるという。これは自然発症率の10倍以上の数値であり、いかにエイズ患者にてんかん発症率が高いかを示している。そして問題は抗てんかん薬とエイズ治療薬との相互干渉である。フェニトイン、フェノバール、テグレトールはある種の抗ウイルス薬の効果を50%以上低下させる。また抗てんかん薬バルプロ酸(デパケン)服用者は抗ウイルス剤を減量しなければならない。抗てんかん薬のラミクタール(ラモトリジン)服用者に抗ウイルス剤を投与すると、ラミクタールの血中濃度は下がり、同じレベルに戻すのにラミクタールを50%増量する必要があるという。

いずれにせよ、エイズ患者に抗てんかん薬を投与するに際しては、抗てんかん薬のみならず、抗ウイルス薬(5種類以上ある)の血中濃度も注意深く常に測定しながら、てんかん及びエイズの治療に当たらなければならない。

先にエイズにてんかんが合併する確率は11%と述べた。この基準を日本に当てはめると、てんかんを持つエイズ発病者はどれぐらいいるのだろうか。

平成22年の厚生労働省エイズ動向委員会の報告によると、最近5年間の感染者総数は5,256件であり、そのうち病気を発症した数は2,155件で過去最高であった。発症者の累計12,634件に上るという。単純計算しても今現在日本には1,389名のてんかんを持つエイズ発病者がいることになる。

私も1人のエイズ・てんかん患者に遭遇したことがある。40歳台前後の女性で側頭葉てんかん患者であった。きちんとした仕事に就いており、知的に優れた人であった。

てんかん発作は意識減損のみで、倒れることはなかったので、仕事は続けられたが、発作が週数回の頻度に増加して、ついに職場から解雇された。ほとんどの抗てんかん薬を使ったが発作は難治で改善しなかったので、最後の手段として外科的療法を考慮し、某病院にお願いして詳しく検査してもらったところ手術可能ということになった。そして手術前の一般検査でエイズが判明したのである。本人も知らなかったらしい。

直ちに感染症専門病院に送られて、エイズ治療が優先することとなった。私は早期発見ができなかったことを後悔している。幸い2次感染は起こらなかったが、貴重な、しかし危ない経験でもあった。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

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