106.てんかん最前線―成人の初発けいれんに対するガイドライン–日本てんかん学会の取り組み (2012年1月号)

すでに「ともしび」第97章(2011.4月号)で「成人てんかんにおける薬物治療ガイドライン」を解説した。これと若干重複するかもしれないが日本てんかん学会は「成人の初発けいれん発作に対するガイドライン」を発表した。これは成人になって、初めててんかんが発症した場合、直ちに治療するかどうか等の対処の仕方を述べたものである。

それまで健康だった人が初めて発作を起こした時の対処の仕方は難しい。なぜなら一度だけの発作でその後発作が起こらない場合があるからである。「急性症候性発作」、あるいは「状況関連性発作」と呼ばれるものがそれである。

何らかの全身的な理由により偶然的に発作を起こすことがある。例えば発熱、感染症、断眠(不眠)、低血糖、高血糖、飲酒、アルコール依存症、薬物依存症、抗精神病薬の乱用、高血圧その他の代謝疾患など偶発的な身体的不調で発作が起こることがある。そしてそれ以後二度と発作を起こさない。これを「急性症候性発作」、あるいは「状況関連性発作」とよぶ。

この際、発作は通常全身けいれん発作であり部分発作の兆候はない。顔や頭が片側に引っ張られることもない。またどちらか片側の手足が他方に比してけいれんが強いということもない。したがって側頭葉てんかんなどにみられる、複雑部分発作(意識減損発作)などは生じない。

脳波では全般性の異常か、あるいは正常脳波を示す。原則としてMRIなどでも異常はない。つまり脳に傷が見られないのである。原因は多くの場合不明である。最近目につくのは薬の乱用による発作である。このような場合は、初めての発作があったとしても、それは偶発的な出来事であり、その後二度と発作が起こらない場合があるので直ちに抗てんかん薬による治療の必要性はない。

しかし問題もある。初回の発作がいわゆる「急性症候性発作」あるいは「状況関連性発作」と判断するのはそう簡単ではない。

したがって初めての全身けいれん発作があった場合直ちに治療するか、あるいは次の発作が起きてからでも遅くないのではないかという疑問が起こる。

私は最初の全般けいれん発作は、もし脳波に異常がなく、MRIでも異常がなければ原則として治療しないことにしている。2度目の発作が起こってから治療開始しても遅くない。初回の全身けいれん発作後に半数近くで発作の再発がないという報告がある。また即時治療群と2回目以降に治療開始した群とで、長期予後に関して有意の差はないと言う報告も多い。いずれにせよケース・バイ・ケースでてんかん専門医の判断が必要になってくる。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

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