98.てんかん最前線:成人てんかんは本当に治りうるのか? ―成人てんかんにおける薬物治療終結ガイドライン –日本てんかん学会の取り組み–  (2011年5月号)

日本てんかん学会は、発作が長期間おさまっている場合、無事に薬を止めることができるかどうかについて統一見解を出した。

てんかんと初めて診断されてよくでる質問は「この病気は治るんですか」、「いつまで薬を飲まなければならないのですか」という質問である。また「発作が治まっているのにあと何年薬を飲まなければならないのですか」、「どのような状態になれば薬を止めることができるんでしょうか」などという疑問も多い。

患者さんによっては「早く薬を飲まないですむようになりたい」と焦る人がいる。そのような患者さんは1-2年間発作がないと油断して一方的に服薬をやめてしまい、病院にも来なくなることが多い。そして発作再発という失敗を繰り返すことも多い。

一方、長年発作がないのに「薬を止めるのは怖いから減らさないでほしい」という患者さんもいる。このような患者さんは過去に何回か断薬して失敗している患者さんである。

もし服薬を止めるなら医師の了解を得て、なおかつ半年に1回ぐらいの脳波検査をすることが望ましい。医師は服薬中止した際、再発の危険性を指導しなければならない。

このような場合の指導要領がこのガイドラインである。ここに述べられているエビデンスを概略する。

1. 小児のてんかんでは予後良好なタイプのてんかんがあるので安心して薬を止められるケースがある。小児良性部分てんかんと呼ばれるてんかん群である。

2. しかし残念ながら成人てんかんでは特にこのような治りやすいタイプのてんかんはない。

3. 多くの文献では2年以上発作がない成人てんかんが服薬中止した後の発作再発率は、1年後25%、2年後29%とかなり高かった。一般に発作再発率は小児てんかん(20歳未満)では成人てんかん(20歳以降)より低い。

4. したがって、治療を終結するには再発の危険性、再発した時の不利益、就労や運転免許、生活の質に及ぼす影響を考慮し、最終的には本人と家族にゆだねる以外ない。

5. 再発の危険因子:
(1)発病年令が青年期以降では比較的高い。
(2)発作頻度:高いほど再発率は高い。
(3)てんかん類型:特発性部分てんかん以外はてんかん類型に関係はない。
(4)脳波異常は発作の再発と関連がある。したがって服薬減量中、あるいは服薬中止後も脳波検査が望ましい。
(5)長期に発作がなく服薬中止した場合、仮に再発しても治療再開により再び長期にわたって発作抑制が可能である。

私は上記以外にも特に薬の減量中や中止を試みた際には、十分な睡眠をとるように指導している。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)