199. てんかん性の「不安発作」とストレスによる不安性障害 (2023年9月号)

 てんかんで「不安」が最初の発作症状として出てくることがある。特に側頭葉てんかんでは、急に不安が襲ってきて、胃のあたりから何かがこみあげてきて、気持ちが悪くなり、意識を失う。普通は数分以内で収まるが、時にはこの不安感が強く、長く続くことがある。一方精神科の疾患で「不安性障害」というのがある。突然不安が襲ってきて、恐怖に満ちた表情になり、身を隠したり、逃げたりする。通常てんかん性の場合は、その持続時間は数分と短く、一方「不安性障害」の場合は30分と比較的長い。それでこの二つは別の病気だと区別がつくが、区別がつかない場合もある。

 例を示そう。40歳代の女性である。
 小学校3年のころから急に恐怖感が湧いてきて、体が硬くなり、後ろに誰かがいるような不安な感じがして、意識を失う。倒れることもあった。数分と短い発作で、かつ脳波でも異常もあるので、てんかんとして各地で治療されてきた。発作はほとんど毎日あり、短い時は数分、長い時は1時間以上続く。難治で、数か所のてんかん専門病院で治療してきたが、治らない。40歳の時に当院を訪れ、私はその後ほぼ10年間、治療を続けてきた。病歴を注意深く聞いてみると、小学生のころから、いじめにあい、きついことを言われたり、無視されたり、水をかけられたりしたという。知的には異常がなく、何とか高校を卒業し、就職したが、「発作」のため長続きしまかった。成人になってからも、いじめは続き、「生きている意味がわからない」と彼女は言う。

 今でも「不安」発作はほとんど毎日あり、急に恐怖感が湧いてきて、体が動かなくなり、後ろに誰かがいるような感じがして怖い。壁に背中をぴったりつけ、そのままじっとして動かないようにしている。犬の鳴き声や物音が恐怖感を誘う。長いと数時間続く。

 私は発作症状から判断して「不安性障害」と考えた。これは心配や不安が突然激しくなり、心臓や呼吸が苦しくなり、場合によっては、このまま死んでしまうのではないかとパニックになる病気である。動悸、汗、息切れ、強い恐怖感が主症状で、発作症状も数時間、続くことが多い。しかしてんかんではない。

 また「社会不安性障害」と言われる場合もあり、人に見られることが怖く、他人の前で失敗や恥ずかしいことをするのではないか、といつも怖がる精神的な病気である。本症例は幼少時に「いじめ」にあい、他人の目を気にしてびくびくしながら生きてきたという事が背景にあり、それが「発作」の誘因になったようである。

 ついでながら、確認のため、長時間脳波を試みた。国立病院にお願いし、1週間入院させ、この毎日脳波記録した。そして「発作」を起こした時の脳波を確認したが、いつもの単発的な脳波異常はみられたが、「てんかんの発作」を起こしているときにみられる「発作時脳波」は出現しなかった。疑わしい場合は長時間脳波検査が必要である。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

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