てんかんの診断に関しては今まで何回か書いた。第56号:知っていますか脳波検査のウソとホント(2007.11)。第89号:てんかん最前線-てんかんの診断ガイドライン(2010.8)。第169号:脳波で、てんかんと診断するのは危ない(2018.6月)。
てんかんが疑われ、治療が必要だといわれたが、確認してもらいたいと、てんかん専門医をおとずれる患者さんはおおい。また既に治療を受けているがなかなか止まらないので、一度専門医に確認してもらいたいと来院する患者さんもおおい。
発作には、けいれんを伴って倒れる発作や意識消失のみで倒れない短い発作もあり、さらにはもっと複雑な動き、例えば走り回ったり、叫んだりする発作もあり、さらには数時間続く長い発作もある。また動きが複雑で、てんかん専門医でも診断に迷うこともある。確認するには、発作を目撃した方から、発作像を詳しく聞き、できれば真似していただくか、あるいはスマホなどに記録してそれを見せていただければ、本当のてんかん発作かどうか大体は見当がつく。
また長期間てんかんとして薬を飲んでいる患者さんでも、発作症状をよく観察すると「てんかん」でないと判断される例もある。
ここで脳波についての役割を説明しておく必要がある。脳波に異常があってもてんかん発作がない例もあり、逆にてんかん発作があっても脳波に異常がない場合もあるので、脳波は万能ではない。脳波を過大評価すると間違うこともある。
最近経験した例を述べる。
35歳の男。ある日、次のような発作が始まった。急に落ち着かなくなり、大声を上げ、部屋中を歩き回り、または画用紙にまとまりのない言葉を書き続け、ついには意識を失って倒れる。この発作は1時間ほど続き、毎日2-3回出現した。難治に経過したので、当院を紹介された。これはストレスによる興奮状態で、てんかんではないと判断し、徐々に抗てんかん薬を減量中止し、代わって抗精神病薬を投与し、かなり改善された。
症例25歳女性、あるスポーツ大会の世話人として大会運営に携わった、勤務は極めて忙しく、食事もゆっくりとれず、夜も眠る暇もなかったという。そしてある日、突然倒れ、意識を失い、全身けいれんが連続して頻回に起るようになった。救急車で病院に搬送されたが、けいれんは2週間ほど連続した。脳波で異常があり、てんかん重積状態として、全身麻酔とその後抗てんかん薬投が与された。2週間ほどで発作は収まったが引き続き抗てんかん薬を飲むよう投与された。
上記2例は発作症状を詳しく観察した結果、てんかんではなく「心因性非てんかん発作」(PNES)であると判断した。精神療法と抗精神病薬が功を奏した。いずれも脳波には軽度の異常があったが、脳波よりも臨床発作症状を重視した結果、てんかんではないと判断されたケースである。
「成人期てんかんの特色」大沼 悌一
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