80.統合失調症と間違われたてんかん(2009年11月号)

前回、前々回には、てんかんの誤診例を挙げた。そこでは認知症と間違われたてんかん、パニック障害と間違われたてんかんの話を述べた。

てんかん発作の症状は他の病気と似ていることがあるため、時には間違われる。てんかんの誤診は二通りあり、てんかんではないのにてんかんと判断される場合とてんかんであるのにそれを見過ごして別の病気と判断される場合である。数から言えばてんかんでないのにてんかんと間違って診断される場合がはるかに多く、てんかんを見過ごして別の病気と診断される場合のほうがはるかに少ない。しかしいずれも間違った診断に基づいて治療されるので「発作」は治らない。治らないのみならず薬だけが増え、副作用に悩むことになる。

今回は統合失調症と間違われたてんかんのお話をしよう。

患者は30歳台の独身女性である。4年ほど前から「言葉や文字が頭に入らない」、「本を読んでも頭に入らない」、「相手の言葉が分からなくなってきた」などの訴えで、ある精神科医を訪れた。「統合失調症」と判断して、強力精神安定剤の処方を受けたが一向に改善しない。よく聞くと、時々ボーとして意識を失うなどの症状があったため、念のためてんかんの可能性も考え、当院を紹介された。

詳しく聞くと日中、ボーとして意識を失い、両手をヒラヒラ動かし、口をもぐもぐさせ、部屋をぐるぐる歩き回ったりするという。このような状態が約10分ぐらい続くのである。この発作は少なくとも過去5回ぐらいあり、時に話している内容が一瞬分からなくなる短い発作もあるという。この症状は側頭葉てんかんの複雑部分発作の意識減損発作そのものであり、口部自動症〈口をもぐもぐさせる〉、複雑な自動症〈歩き回る〉の特徴を示している典型的な側頭葉てんかんの発作である。

統合失調症には「思考奪取」、「思考制止」という症状がある。今何を考えていたか急になくなる現象である。時にはそれがひどくなり、患者は何も喋れない緘黙状態になることもある。

統合失調症に特有な「思考障害」のひとつで、「滅裂思考」(言葉と言葉の関連性が薄くなる)と共に統合失調症の1級症状とされている。しかしこれがてんかん発作の意識減損発作に似るのである。統合失調症には「思考障害」以外にも通常、幻覚・妄想などがあるので、診断を間違う可能性は少ないが、皆無ではない。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

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