196. 怒りが収まらない患者さんたち-その2- (2023年3月号)

・情緒不安定パーソナリティ障害

 てんかん患者さんの中には些細なことで、怒りが誘発されることがある。知的障害や発達障害があり、理解力が足りなかったりする例では、周りにうまく適応できず、ちょっとしたことでも短絡反応を起こし、いらつくこともある。

 統合失調様症状のある方は、幻覚や妄想に支配され騒ぐこともあるが、統合失調症状が収まれば、いらつきは落ち着く。子供であれば、親との折り合いが悪くなり、騒ぐこともあろう。このように怒りが誘発される原因は様々であるが、その程度はおおむね軽く、通常緊急な治療が必要とはならない。

 しかしまれには性格の偏りが激しく、大きなトラブルや犯罪や事故になる例もある。最近出版された精神疾患の国際分類に「精神および行動の障害」という項目がある。そしてその中に、「情緒不安定性パーソナリテイ(性格)障害」という項目がある。
これには次のような記載がある。「感情の不安定さがあり、結果を考慮せず、衝動に基づいて行動する。あらかじめ計画を立てる能力がきわめて乏しく、強い怒りが突発し、しばしば暴力あるいは「行動爆発」にいたることがある。これらの衝動行為は他人に非難されたり、邪魔されたりすると容易に促進される。通常、絶えず空虚感があり、激しく不安定な対人関係に入り込んでいく。

 以上の記載は、暴力的な人格障害を持つ例で、内容は難しくわかりづらい。しかし簡単にいうと、乱暴な性格で犯罪にもつながる可能性がある患者といえる。

 その頻度はそれほど多くないが、いったんこのような患者と出会うと、その治療が大変で下手をすると、犯罪に巻き込まれる可能性もある。精神科の医師はこのような患者さんに出会うことがあり、上手に付き合わないと混乱に巻き込まれる。


・心にゆとりを取り戻すには

 私はここ50年以上、精神科診療しているが、この間、数例のこのような患者を経験した。彼らは知的レベルが比較的高いが、衝動的に行動するので扱うのが大変難しい。
私が経験した数例のうち、衝動的に薬物依存に走ったり、交通事故を起こし大怪我をしたり、はてまた自殺した例もある。ここまで困難ではないが、その「予備軍」がおり、心に余裕がなく、危ない。しかしそれでも、何とか精神医療の線に載せられないものかと考えた。そして考え付いたのは「大丈夫です」、「ありがとう」、という言葉をまず患者さんの口からいってもらうことだった。患者さん自身が、この言葉を自由に言えるようになれば、より辛抱できるようになり、心にゆとりが生まれると考えた。試しに数人の患者さんに、「大丈夫」.「ありがとう」と口に出していってもらったら、気持ちがすっきりしたという笑顔が返ってきた。心が開かれた瞬間である。これからもこれを継続しようと思う。
      

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一 

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