195.怒りが収まらない患者さん達(2023年1月号)

当院には多くのてんかん患者さんが通院しているが、皆さん穏やかで、騒ぐ人はいない。しかしよく聞いてみると、いろいろな不安を抱えている方が多く、中にはストレスで落ち着かず、いらいらしたりする人もいる。ストレスが高ずると、易刺激的なり、怒りがわく。些細な原因で不快な感情が生まれ、自分で耐え切れなくなり、攻撃に走るパターンである。普通は何らかの原因で不快な感情が生まれても、何とか考え直し、穏やかに適応していける。しかしそれを超えると不機嫌な表情になり、返事もしなくなり、あるいは大声で「怒鳴り返す」などがある。するとお互いに気まずい雰囲気がうまれ、いやな雰囲気が流れる。多くの家庭内不和、あるいは友人同士のいさかいなどがこれであり、言葉での攻撃が数か月もしつこく続くこともありお互いに参ってしまう。


さらに激しくなると暴力沙汰になり、第三者の介入が必要になる。


これらの患者さんをよく見ると何らかの障害を持っている人が多い。知的障害者などで理解力が低いかたは、誤解しやすく、辛抱できなくなり、怒る人がいる。また親子関係のなどの甘えが高じて、乱暴になる人もいる。また被害妄想に基づく怒りもある。自分に関係のないことでも自分に関係があるごとく間違って解釈して、被害的になり怒る人たちである。


医師はこのような方に、どのような治療を施したらいいか、私は長い間迷っていた。薬物療法には限界があり、強い薬を使うと、副作用でぐったりして生活レベルが低下する。できれば精神療法的にアプローチする方法はないものかと試行錯誤した結果、次のような結論に達した。

  1. まずは患者に自分の不安や怒りをやわらげるため相手(親、友人)に「どうもありがとう」と感謝の言葉を口に出してもらう。試しに主治医の前で練習させ、上手にできたら「よくできました」と褒めてあげる。
  2. 患者と面接するたびに患者を褒めてあげること。患者はいままで褒められたことなどほとんどないため、褒められると、びっくりして「にっこりと笑う」。そうなれば治療はよい方向に行っている証拠となる。「おりこうさんになった?」と誉め言葉を期待する声もかかることがある。
  3. 「ごめんなさい」という言葉を簡単に言えるようになること。患者が戸惑って迷ったら、すかさず私の方から「困らせてごめんなさい」という。

なお患者さんから「私が悪くないのになんで謝らなければないの」という反論が出るが、その時はすかさず「迷わせてごめんなさい」とこちらから口に出す。

以上は自分の家内にこっそり実験してみてその効果にこちらの方がびっくりした。小言の多かった妻の小言がすくなくなったのがその証拠。妻の怒りがすぐ消えるようになるのと同時に自分の怒りもすぐに消えるのにもびっくりした。理由はどうあれ、とりあえず「褒めること」、「ありがとう」と「ごめんなさい」を忘れずに、皆さん試してみたらいかが。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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