194.入浴てんかん(2022年11月号)

私は日本てんかん協会東京都支部の機関紙「ともしび」にほぼ毎月連載物を書いてきた。第1号は2003年4月だから、もうかれこれ19年5か月となる。題は「てんかんに関する諸問題」として、てんかんの原因、症状、治療、そしててんかん患者さんが直面する悩みなど幅広く取り上げてきた。最近は「コロナ関係で混乱する社会」を5回にわたり連載してきた。ちょっと課題がてんかんから離れてしまったきらいがあるので、今回から、直接てんかんに関連する課題に戻ることとする。 今回取り上げる課題は「入浴てんかん」である。


入浴てんかんとはお風呂に入るとことによって発作が起こるが、入浴していない時には発作を起こさないてんかんである。 多くのてんかん患者さんは、通常、入浴とは関係がなく発作を起こすが、偶然、入浴中に発作を起こすこともある。この様な例は「入浴てんかん」とは呼ばない。発作を起こすときは必ず入浴時に限っており、入浴時以外では発作を起こしたことがないのを「入浴てんかん」と呼ぶ。入浴てんかんはきわめてまれで、私は今まで2例しか経験がない。


症例を述べる。

8歳の女児、5歳のころより発作が起こるようになった。発作は必ず入浴時であり、湯につかって数分経過すると、急に意識を失い、「あー」と声を出し口をもぐもぐさせ、動き回るが、けいれんや倒れることはなかった。脳波と発作症状から側頭葉てんかんと診断した。風呂の温度が重要で39度以上で、かつ肩までゆっくり湯につかることが発作の誘因となった。カルバマゼピンで発作を完全に抑制でき、治りやすいてんかんであった。


症例2 41歳男。大学1年のころより入浴時に限って発作を起こすようになった。風呂に入ってしばらくしてから、あるいはシャワー浴びて、15分もすると、急に倒れ、全身の痙攣に至る大発作である。この発作は年に1回程度で頻度は少ないが、発作は必ず入浴時に限っていた。脳波では全般性の異常が見られ、特発性全般てんかんと診断された。バルプロ酸で完全に発作が起こらなくなり、治りやすいてんかんであった。


このようにてんかん発作を起こす誘因がはっきりしている場合を「反射てんかんと」呼び、過去の「ともしび」で記載したことがある。音楽を口ずさむ、あるいは音楽を聴くことにより発作を起こすのを音楽てんかん(ともしび23号)と呼ぶ。その音楽もいつも同じ決まった音楽、曲であることが多く、その曲が鳴るとほぼ確実に発作が引き起こされる。光過敏てんかん(ともしび19号)はピカピカ光る光刺激が発作の誘因となる。池や海の水面に反射する光、木の枝から漏れる日の光などが誘因となる。びっくり(驚愕)てんかん(ともしび20号)は突然の音、あるいは後ろから突然肩をたたかれてびっくりした時に発作が起こる。意思決定てんかん(ともしび22号)とは例えば大きな、かけ事をして、それががうまくいった瞬間、期待が成就してびっくりしてた時に発作を起こすなどである。

発作が起こる原因は複雑で、多くは高次脳機能が関係するらしい。てんかん発作の誘因は多岐にわたり複雑である。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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