160.忘れえぬ患者さんたち(その8)――とんちんかんなことをする患者さんたち ――(2016年12月号)

長い間てんかんの診療をやっているとおかしな症例に出会うことがある。失礼だがめったに見られない興味ある症例ともいえる。その中でも、おかしな動作・行動を繰り返す患者さんがいる。仕事だと言って夜中にパジャマ姿で外に出かけたり、電車に乗ろうとして出かけたが、乗らずに町の中を放浪したりする症例である。目的のない行動、あるいは間違った目的を持った行動ともいえる。

通常てんかん性のもうろう状態は、短い。しかしこのようなもうろう状態が数時間から1日中続く場合もある。きわめてまれでな症例である。
これがてんかん発作の「もうろう状態」であるかどうかは、脳波を取らないとわからない。

症例を示そう。患者は60歳の女性である。仕事熱心で、よく気が付く優秀な女性であるが2年ほど前から、「仕事がはかどらない、ミスが多い」時間帯があることに気づいた。このような状態が通常2時間ほど続いて元の元気な彼女に戻る。長い時は1日中続くこともある。夫の話によると、この間落ち着きがなくなり、ソワソワしてお風呂に入ると言って風呂をたいたが、風呂場と台所を行ったり来たり、大声で呼びかけると気が付く。

またある時は、会社に行くと言って夜間外に出たりした。仕事の帰りに、電車に乗れなくなり、改札口を通り、また出て町の中を歩き回ったりしたことがあった。てんかんが疑われ、当院を受診した。
脳波を取ったら驚いた。右前頭部に頻回な発作波が見られ、前頭葉てんかんであった。テグレトールで発作完全に止まり、今は発作はない。

症例2 70歳女性
20歳時に長距離バスの中で本を読んでいた時、急に意識を失い、体が硬直し両上肢硬直したが誰も気が付かなかった。29歳の時、出産で入院している時、睡眠中にベットから転落した。退院するとき、その人から「てんかんですか」と聞かれたという。同じようなことが夜間、睡眠中たびたび起こり、32歳より服薬開始した。睡眠時のてんかん発作である。

その後日中でもおかしな動作をするようになった。この間、ボーっとしておかしな行動をとる。電気をつけたり、消したり、会社に行くと言って夜間、パジャマ姿で外に出たりすることもあった。靴下を履かずに素足で靴を履いて町を歩きまわったりした。会社に行こうとしたらしい。職場でも不必要なごみを集めたり、不自然な行動することをするので家に帰されてこともあった。このようなおかしな行動が長い時は1日中続くのである。
脳波を取って驚いた。右前頭部に発作波(棘―徐波複合)が連続して出現するのである。

以上の症例はいずれも長時間続く発作性のもうろう状態で、発作重積状態といえる。このような長時間続くもうろう状態はきわめて珍しい。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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