沢山の患者さんを診ていると時に手強い患者さんに遭遇することがある。大声をあげ、騒ぎ、制御が利かない患者さん達である。自分を傷つける自傷、他人を傷つける他害が多く、薬もあまり効かない患者さん達である。自傷としては例えば自分で顔を引っ掻く、膝や肘を壁に打ち付ける、変形してしまうほど頭部を叩くなどの行動があり、他害としては他人を引っ掻く、抓る、叩くなどがあり、それ以外にも物を壊す。ガラスや家具、ドア、茶碗、椅子、眼鏡、服を脱いで破くなどがあり、その結果自分にも周りにも大きな危害を及ぼす行動があり、注意や指示が通らない患者さん達である。
これらの患者さんの多くは重度の知的障害があり、こだわりが強く自閉症傾向(自閉症スペクトラム)を持つ場合が多い。てんかん発作を持つ人も持たない人もいる。
介護する人は対応に困り、家庭内では対応困難なので、結局は施設入所となることが多い。しかし入所しても職員がその対応に困る。
例をあげよう
症例1.40歳後半の男 仮死状態で生まれ重度の知的障害を持つ。幼少時けいれん発作があり、その後年数回の同様な発作があったが、最近ここ数年間発作はない。各地の精神科で治療を続けてきたが、両親が老化し世話ができないので施設入所となった。しかし問題行動が著しいので、施設でも困っている。おのずから多量の抗精神病薬や抗てんかん薬などが試みたられたが、一向に行動は治まらない。一番困った問題行動は裸になって廊下を走り回り、脱いだ衣類に唾をかけ、水に着けるなどの「こだわり」である。肛門に指を突っ込み、それを舐め、他人にこすりつけるなどの奇妙なこだわりがある。ドア蹴りもみられ、自分の頭を引っ掻き、他人を突き飛ばすなどの行為があり、施設職員が押し倒されて骨折したほどである。一時最寄りの精神病院に入院をお願いしたが、全裸で奇声を発して走り回ったので、個室施錠となって1か月後退院させられた。
症例2 大学卒だが幼少時より自閉的傾向が強かった。他人との円滑な会話ができず、いつも威嚇して命令する。自分に気に合わないと「この馬鹿野郎」とどなる。家族は母と弟の3人だが、部屋に閉じこもりがちで、誰かが部屋に入ってくると被害的になる。かつて幼少時てんかん発作があったが今はない。
この強度行動障害という言葉は病名ではない。自傷、他害が通常考えられないほどの強さと頻度で見られ、そのこだわりも矯正が難しく、対応はきわめて困難な一群である。
その本質は、興味関心が限定され、それに対する過度な執着性、感覚の過敏性といった障害特性があり、そのため環境にうまく合わせられないことにより、嫌悪感や不信感が高まるためと考えられている。私もしばしばこのような方の対応に頭をなやましている。
参考資料:特定非営利活動法人全国地域生活支援ネットワーク/監修 『行動障害のある人の「暮らし」を支える: 強度行動障害支援者養成研修[基礎研修・実践研修]テキスト』中央法規出版 2015年
「成人期てんかんの特色」大沼 悌一
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