156.忘れえぬ患者さん(その5)、手術でも治らなかった側頭葉てんかんが新薬で治った(2016年3月号)

これまで薬でも治らない、手術しても良くならなかった側頭葉てんかんが新薬で治った話をしよう。

初診時15歳女子、10歳ごろから「急に意識が曇る」発作が起こるようになった。目は空を見つめ、それまでやっていた動作が止まる。またぼんやりしながら動き回ったりすることもあったが本人は覚えていない。夜間睡眠中の発作は体が硬直し、時に尿失禁がある。夜間の発作は週数回と多い。調理中に発作があり右手を火傷したことがある。まれに転倒しけいれんする発作もあった。脳波に右側頭部に発作波が出現しており、発作症状も側頭葉てんかん、複雑部分発作なので、カルバマゼピンを第1選択薬と考えた。しかし発作が治まらなかった。バルプロ酸(デパケン)、フェニトイン(ヒダントール)を試みたが効果はなかった。

高校卒業し介護施設に就職した。25歳で結婚した。出産を希望していたのでフェニトイン、バルプロ酸を中止し、カルバマゼピンの単剤で治療した。薬物を整理したが発作は悪くなることはなかったのは幸いであった。発作は完全に治まらなかったが2児の母親となった。

その後も発作は月1回ほどあり、時には1日3回の発作を起こしたことがある。MRIで右内側・側頭葉(海馬・扁桃体)に硬化所見があったので、私は手術に最も適した症例であり、手術により発作は完全に治まる可能性が高いと考えた。脳外科医に紹介し、彼女は迷った末、外科的手術に踏み切った。しかし手術により発作は月1回程度に減ったが、完全には治まらなかった。

その後遠距離にある東京の私のクリニックに定期的に通院するのが困難になってきたので、近医の一般内科医院に投薬をお願いし問題があったら電話で対応することとした。その後数年経った。

新薬が使えることとなったので主治医に連絡の上、レべチラセタム(イーケプラ)の併用療法を提案した。現在のカルバマゼピンに追加し、レべチラセタム250㎎を1錠から始め2錠まで増量するよう指示した。この薬は3000㎎まで増強可能で、副作用は眠気がありうると伝えた。

その後さらに数年経過した。しばらくぶりで彼女からメールが入り、発作がまったくなくなったので、服薬を止られないかと聞いてきた。レべチラセタム250㎎で発作が完全に消失し2年半が経ったとの事だった。この量は常用量以下であり、この少ない量で発作が完全に治まっているのは驚きであった。今後カルバマゼピンを減量中止し、レべチラセタム単独で治療する方針とした。少量の新薬で難治てんかんが治ったのは全くのラッキーだった。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

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