137.発作の裏にある脳の病気:その26 脳の奇形 その2(2014年8月号)

脳の奇形にもさまざまなものがあり、大きな奇形は知的障害や手足のまひなどを合併し、脳性小児まひの原因ともなる。比較的小さな奇形で「神経細胞移動障害(皮質形成異常)」と呼ばれる疾患がある。最初1個だった受精卵が細胞分裂を繰り返し、人間の体を造っていくわけだが、脳もかようにして分裂を繰り返して作られる。かつて私は「てんかんの原因、皮質形成異常について」の項で、人間の脳ができる仕組みと、その際神様が作り方を間違ってしまうこともありうると書いた(2006年8月号)。ここに再びその要約を載せる。

人間の脳はほぼ140億個の神経細胞があるという。1個の神経細胞を支えるため、その10倍のグリア細胞があるのでそれを含めるとその数は膨大である。これがただ1個の受精卵が分裂と成長を重ねて、胎児が生まれるまでの1年間という短い間に体や脳が出来上がるのだからまさに驚異である。しかもこの脳細胞はきわめてきめ細かく秩序良く並んでいて、互いに近距離、遠距離とも一瞬のうちに連絡が出来るような網の目構造になっているのだから不思議だ。

神経幹細胞がスーパーマンで何にでも変わりうる変幻自在な特性を持っており、その場に必要な細胞に自らを変身させ、互いに手を伸ばしながら、連絡していくのである。しかし神も時々間違って、あるはずがない所に大脳皮質が紛れ込んだり、どこかに居座ってそこに集団を作ってしまうのである。これを異所性灰白質といい、皮質形成異常の一つである。

例を挙げる。40歳台の女性

14歳ごろからけいれん発作があり、その後20歳ごろより、意識消失のみで倒れない軽い発作に変わる。気分が悪くなるという前兆に引き続いて、意識を失い、何事かしゃべったり、手を叩いたり、肩を叩いたりする。発作は週3-4回と難治な経過を取った。

発作があるにも関わらず、お見合いし首尾よく結婚した。私はただちに薬の減量に取り組み、テグレトールを3分の1に、アレビアチンを中止した。そして彼女は妊娠した。出産・育児は可能かしらと、何度か本人を交え、家族、市の職員らと話し合った。また紹介先の産婦人科医からも「大丈夫ですか」と念を押された。

しかし彼女の子供を産むという決心は固かった。減薬によって発作はむしろ増えたのでイーケプラを追加し、帝王切開にて無事女児を出産した。出産後も発作は相変わらず週数回あり、危ないことも沢山あった。「ベビーカー押していて駅のホームで意識減損、気が付いたら3駅離れたところにいた」、「雪かきしていて気が付いたら雪の中で倒れていていた」など。しかし彼女は発作に負けることなく、何とか子育てしている。子の生育も良い。

その後も発作が続いたので、ラモトリジン、トピラメーと、ガバペンチンなど試みたがいずれも無効であった。脳のMRIは、右頭頂葉、後頭葉、側頭葉に大きな脳回形成異常があり、異所性灰白質があった。脳の奇形を持ち難治な発作があるにもかかわらず、挙児、育児に励む姿を見ると、今後も無事であってほしいとねがう。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

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