136.発作の裏にある脳の病気:その25 脳の奇形 その1(2014年7月号)

これまで数回にわたり、脳の代謝疾患について話してきた。低カルシウム血症、低ナトリウム血症、高アンモニア血症、脱法ハーブ、アルコール依存症、精神科治療薬剤、肝や腎疾患など内臓疾患や薬物などが脳機能に影響を及ぼし、意識障害やてんかん発作を起こす場合があると述べた。

これからは脳の奇形の話をしよう。遺伝子が関与する先天性病気で受精した瞬間からそのような病気になる運命にある疾患(たとえばダウン症)、胎児の脳が形成されるとき神様が間違った設計図を書いてしまった例(神経細胞移動障害)、出産時に脳に酸素や栄養がいきわたらなくなり、脳障害が起きた例(出産時障害)など原因はさまざま、障害の程度もさまざまである。

大きな異常は脳奇形と呼ばれることが多く、無脳症、脳瘤、脳回欠損、厚脳回、多小脳回、全前脳包症、孔脳症、水頭症、脳梁欠損症、二分脊椎,厚脳回症など多数ある。いずれも重度の知的障害、発達傷害を合併することが多い。妊娠中に胎児のMRIを調べればある程度この病気を発見できる。

小さな異常には神経細胞移動障害などと呼ばれる、多小脳回、異所性灰白質などがある。てんかん患者の脳のMRIを調べてみると、難治てんかんではこれが見つかり、てんかん外科の対象になることが多い。

血管の異常としては脳動静脈奇形、脳動脈瘤、海綿状血管腫がある。これらの異常な血管が破れ、脳出血になる可能性や、付近の脳を刺激して、てんかん発作の原因となったりする。

ついでながら子供を産む前に胎児に奇形があるかどうかを調べる方法がある。クアトロテストと呼ばれるものがそれで、胎児がダウン症候群、18トリソミー、開放性神経管奇形にかかっている確率を計算して出す方法である。倫理的な問題もあり、妊婦が希望すれば受けられるが、確率は高いか、低いかが出るがゼロではないので、その結果も悩ましいものがある。

ここに孔脳症の1例を挙げる。

症例 60台の男  小学校低学年よりてんかん発作があった。急に右上肢から始まるけいれん発作でそれだけで終わり、意識は失われない。10-15分続く。

さらに強くなると体を左側に回転させ、右上肢挙上のフェンシングスタイルを取り意識を失って倒れる。発作後右手足が数時間、一過性に麻痺することがある。頻度は月1-2回で難治である。発作の前兆として不安恐怖があり、その際頓用としてセルシンをのむ。軽度の知的障害があり、会話にも飛躍がある。そのため他人には理解されにくい。「哲学とは何か」、「人にはブラックホールがあり星と同じですね」などと衒奇的な思考がある。MRIで右半球に先天性の大きな嚢胞がある(孔脳症)見られた。

胎生期や出産時に赤ちゃんの脳に十分な酸素と栄養が回らないと、脳の一部が壊死に陥る。そのあと脳実質が欠損し液体に満たされた空洞になる。これが孔脳症である。てんかん発作や脳性麻痺をもつことも多い。本症例では幸い脳性麻痺は見られなかったが難治なてんかん発作が残った。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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