138.発作の裏にある脳の病気:その27 神経皮膚症候群の一つ、結節性硬化症(2014年9月号)

一個の受精卵が人としての形ができるまで、複雑な経過をとる。受精卵が分割しある程度大きくなると、まず中が空のボール状の細胞塊になる。この表面の一部がくぼみ、中にめくりこみ、内側と外側の2枚構造になる。外側が外胚葉、内側が内胚葉という。単純な動物はこの2枚構造からできるが、もう少し高等な動物になると、この2枚構造の間にさらに細胞塊を生じ、これを中胚葉という。

外胚葉の一部は発生途中で溝状に陥入して神経管を形成し、脳や脊髄などの神経系の元にもなる。このように皮膚と神経は同じ外胚葉からなり、皮膚と神経が同時に侵される病気ができてくる。神経皮膚症候群というのがそれである。

ついでながら述べるが内胚葉は食道、胃、大腸などの消化管や肺、膵臓、肝臓などを作る。中胚葉は筋肉、骨格、心臓・血管、脾臓、腎臓などを作る。

神経皮膚症候群の一つに「結節性硬化症」という病気がある。皮膚と脳神経に異常が出る疾患である。皮膚には、主に顔にニキビに似たイボ(結節)が多数できる。また顔や皮膚に白斑といわれる白い斑点が多数できる。また同時に神経・精神症状として、てんかん、知的障害、自閉症などがある場合が多い。

脳にも皮膚と同じような結節(良性腫瘍)ができ、側脳室と呼ばれる部屋の壁にできやすい。大きくなると脳腫瘍になる。この疾患の原因として遺伝子の異常が証明されている(9番と12番上にあるTSC1、TSC2)。根本的な治療法はない。

多くのてんかん患者を診ていると、顔の皮膚に結節や白斑があるので、すぐに診断がつく。しかしまれにこれらの症状がない場合もあり、CT,MRIを取って初めて分かることもある。最近経験した症例を示す。

30歳台 男

20歳時学校で昼休み中倒れ、けいれん発作があった。発作はこの1回きりだが、脳波に右側頭部に鋭波が頻発しているので抗てんかん薬を開始した。その後発作はない。

高校、大学、専門学校を卒業し、就職したが1年で退職した。力不足で会社の要求にこたえられなかったと本人の弁。発作以外には特に神経、精神症状はないのだが、脳の画像をみて驚いた。

CTには両側側脳室壁沿いに結節状の石灰化が多数あった。MRIでは右前頭葉・左頭頂葉に大脳皮質や皮質下に高信号が多発していた。

結節性硬化症患者の多くは、幼少時から、顔にイボ(結節)が多発し、また白い斑点(白斑)もあり、一見してすぐ診断がつく。多くは知的障害も加わり、てんかん発作も難治である。しかしこの例のように知的障害も結節、白斑もなく、てんかん発作も1回ときわめて少ないケースは初めてある。CT、MRIをとって初めて診断がついた。結節性硬化症は早くから特徴的な症状が出るが、このように症状が出ない例もまれにある。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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