88.臨床てんかん学の最近の進歩・てんかんの新しい分類(2010年7月号)

てんかんの国際分類が2010年に新しくなった。

「てんかん発作」という共通な症状をもつ「てんかん」は、さまざまな原因があり、発作症状も多岐にわたるのでその分類は複雑である。しかしこれら複雑なてんかんを適切に分類し、世界的に共通する分類を作ることは、共通の「言葉」を作ることであり、これによって世界のてんかん学者は共通な言葉で議論することができた。そして臨床てんかん学は著しく進歩した。さらにてんかんに関する教育・福祉面にも役立った。

しかしてんかんの分類は複雑であるので、細かいところは議論が絶えず、ややもすると、誰のための何を目的にした分類かが分からなくなることもある。

てんかんの分類とは互いに似たような症状・病態をもつ群をまとめ、これを「てんかんA群」とし、別の症状・病態を持つ群を「てんかんB群」として、同様に「てんかんC群」、D群などとし、それを「てんかん」という大きな箪笥の別々の引き出しに分けて整理・収納することである。

従来の分類では脳に傷があるかないかでてんかんを大きく2群に分け、傷がある場合を症候性てんかんとよび、傷がない場合を特発性てんかんと呼んできた。また発作が脳のどこから起こるかという観点からてんかんを大きく2群にわけ、脳の一部から始まる場合を部分てんかんとよび、脳全体が同時に興奮する場合を全般てんかんとした。従ってすべてのてんかんは、以下の4群に分けられた。すなわち(1)特発性・部分てんかん、(2)特発性・全般てんかん、(3)症候性・部分てんかん、(4)症候性・全般てんかんである。この分類は簡単で大変分かりやすい。

今回(2010年)の分類の特徴は従来の「特発性、症候性、部分、全般」という言葉を止め、遺伝性と発症年齢を重視し細分化したことにある。

従ってまず1)遺伝性年齢依存性てんかんという群を設け、(1)新生児期のみに見られるてんかん群(良性家族性新生児てんかん、早期ミオクロニー脳症、大田原症候群)、(2)乳児期に見られるてんかん(ウエスト症候群、乳児ミオクロニーてんかんなど)、(3)小児期に認められるてんかん(レンノックス・ガストー症候群、小児欠神てんかんなど)、(4)青年・成人期に見られるてんかん(若年欠神てんかん、強直・間代発作をもつてんかんなど)、(5)年齢とあまり関係のないてんかんに分けられた。

次に2)器質性・代謝性の原因によるてんかんという群を設けた。これは従来の症候性部分てんかんの属すると思われる群で、どの年齢でも発症しうる。原因として脳のさまざまな器質的障害が記載されている。

以上が2010年の新しいてんかん分類だが、従来の分類に比べれば分かりにくい。近年てんかんの遺伝的病態が解明され、新しいてんかん症候群の輪郭が浮かび上がってきた。そしてこれが新分類に反映されていることは理解できる。しかし一般の患者・家族・社会・教育的側面を援助する方にはむしろ煩雑である。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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