77.症候性部分てんかん(頭頂葉てんかん)(2009年8月号)

脳は大きく分けると、前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉の四つに分けられる。そしてそれらの部位から生ずるてんかんをそれぞれ前頭葉てんかん、側頭葉てんかん、頭頂葉てんかん、後頭葉てんかんと呼んできた。これらは脳のてんかん焦点部位による分類で、てんかんの国際分類もそのようになっている。

脳の前のほうで、脳全体のほぼ前・半分を占める大きな場所は前頭葉と呼ばれる。他の動物に比べ、人間で最も発達してきた部位である。特にこの部の前のほうは、前・前頭葉といわれ、人間らしい英知が宿る場所でもある。猿から類人猿、人類へと進化してくる経緯の中で、特別に発達してきた「新しい脳」で、人類の特徴と歴史がここに詰め込まれている。ここから出るてんかん発作は前頭葉てんかんと呼ばれ、これについてはすでに説明した。

それに比べて側頭葉は比較的古い脳である。人間以外の哺乳動物ではこの部が最もよく発達しており、その占める面積も大きい。人間では脳の外側を占め、前頭葉に押しつぶされたような格好になっている。場所的には耳の奥に位置する。側頭葉の外側面は主に聴覚をつかさどるところで、耳と直結している。側頭葉の内側は、内側側頭葉と呼ばれ、人間の感情・情動や記憶をつかさどる。怒り、悲しみ、不安、恐怖はこの部が支配する。前頭葉が「英知」をつかさどる一方、側頭葉内部は情動を支配する。なるほど他の哺乳類、類人猿はこの部がよく発達しており、彼らは、いち早く危険を察知して、逃げるか攻撃にするかが命の分かれ目になるので、この部は最も重要な場所でもある。この部から出てくるてんかん発作は側頭葉てんかんと呼ばれ、不安・恐怖などが前触れとして出てくることが多い。これについてはすでに述べた。

後頭葉は脳の後ろに位置し視覚をつかさどるところである。ここからの発作は後頭葉てんかんと呼ばれ視覚と関係のある発作症状が出る。

成人てんかんで最も頻度が高いのは側頭葉てんかんで成人てんかんのおよそ半分を占める。それに次ぐのが前頭葉てんかんである。さらに後頭葉てんかんがそれに次ぐ。

それでは頭頂葉は何をするところであろうか。頭頂葉は、前は前頭葉の運動領野と接しており、下は側頭葉の聴覚領野と接しており、後ろは後頭葉の視覚領野と接しており、これらに囲まれた比較敵大きな領域である。この部は感覚連合野とも呼ばれており、知覚の総合判断を行う場所である。手で触れたものが、やわらかい物か、硬いものか、重いものか軽いものか、目で見えたものが何なのか、今聞いた音が危険を知らせる音かなど判断する。

この部が犯される病気に「ゲルストマン症候群」というのがある。手指の失認、左右障害、失語、失書の四兆候が出る。自分の指が「自分のものか、他人のものか」わからなくなる、右と左の区別がわからなくなる、失語症が出て言葉が理解できなくなる、それから文字が読めなくなるという症状である。これらは感覚の統合が障害されるという特徴を示している。

それでは頭頂葉てんかんはどんな症状だろうか。

頭頂葉てんかんはその頻度が最も少ないてんかん症候群で、発作症状は主にしびれ、痛み、などの知覚症状を示す。感覚を統合する重要な領野ではあるが、てんかん発作が最も生じにくい場所でもある。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)