126.発作の裏にある脳の病気:その15 脳炎・脳膜炎(特に無菌性脳膜炎について)(2013年9月号)

大人になってからてんかんを発症した患者さんには幼少時に脳炎にかかったことがあるという人が多い。多くは頭痛・嘔吐にひきつづき、数日間意識がなくなり、けいれん発作が頻発する。その後、知的障害や四肢のマヒを残すこともあるが、完全に回復して後に成人になってから初めて、てんかん発作が起こることもある。私が幼少のころ「疫痢」という病気があった。2~5歳,とくに3歳前後の幼児を襲う、赤痢菌による感染症で、脳症を合併し、意識障害、けいれん発作も起こった。死亡率も高い、怖い病気だったがどういうわけか今はほとんど見られなくなった。

脳炎・脳膜炎の急性期には発熱や頭痛、嘔吐、けいれんなどが起こり、多くは意識障害を来たす。原因は細菌、真菌あるいはウイルスなどの感染である。脳髄膜は俗に脳膜ともいい脳脊髄を取り囲んでいる薄い膜のことであり、これが炎症を起こすと髄膜炎となる。さらにその内部にある脳がやられると脳炎となる。

脳・脊髄を囲んで保護している脳膜は3枚構造になっている。脳にぴったりと張り付いている内側の膜を軟膜といい、その上にクモ膜、さらにその上に硬膜がある。軟膜とクモ膜都の間にクモ膜下空があり無色透明な液体が流れている。これを髄液という。いわば脳はこの液に浮いている状態と考えてよい。背中に針を刺し、この髄液を取って調べることにより、脳炎・脳膜炎の診断ができる。髄液中に顕微鏡で肺炎菌、髄膜炎菌、大腸菌、結核菌、真菌などが証明されれば、細菌性髄膜炎であり、顕微鏡で細菌が証明されない場合は多くはウイルス性髄膜炎である。

通常髄液中の細胞はきわめて少ない。通常1μmmあたり3-5個でほとんどが単球である。赤血球がみられると脳のどこかで出血があり、白血球が増えていると何らかの炎症が疑われる。細菌性髄膜炎の場合は髄液中に多核白血球が増え、その数もきわめて多い。

ウイルス髄膜炎の場合は髄液中の細胞は主にリンパ球か単球であり、その数は比較的少ない。

最近経験した例を述べる。

30歳台の男性、1週間の頭痛の後に、発熱、強直・間代性のけいれん発作があった。髄液細胞数の増加(単核球優位)があり、無菌性髄膜炎と診断された。無菌性とは、髄液中に細菌が証明されないウイルス性髄膜炎のことである。症状は比較的穏やかであった。

MRIで右側頭後頭葉に炎症性変化あり。目の前に光が点滅し、目の前の景色がゆがむという視覚発作が生じた。脳波では右後頭部にてんかん性発作波を認めた。

イーケプラとテグレトールの内服で発作波完全に消失した。1カ月後の脳波は正常になっており、後遺症は残さなかった。無菌性(ウイルス性)髄膜炎は症状が比較的軽く後遺症も残さないことが多い。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする