120.発作の裏にある脳の病気:その9 脳出血とてんかんについて(2013年3月号)

癌、脳卒中、心臓疾患は3大成人病であり、死亡率も高く、治療にも時間がかかる。また死亡率も高い。最近はこれに精神疾患も含め、4大成人病といわれるようになった。もちろん精神疾患で急死することは少ないが、患者数が増加し、治療に時間がかかるので、4大成人病の仲間入りすることとなったらしい。

これまで、てんかん発作の裏にある脳の病気について述べてきた。前回は脳梗塞について述べたが、今回は脳出血について述べよう。

脳出血は突然起こり、時には死に至る。その原因は様々だが一番多いのは高血圧性脳出血であろう。高血圧があると動脈硬化が進み、もろくなって破れる。その他に動脈瘤の破裂、くも膜下出血、動・静脈奇形などもある。脳内に出血が起こると後にてんかん発作が20-40%の割に起こりうる。例を示そう。

現在50才男:10歳のころより右上肢のしびれ感が数秒続く発作が起こるようになった。この発作はほとんど毎日数回起こったが特に気に求めなかった。しかし17歳頃からしびれ感に引き続いて、右上肢のけいれんが起こり、時には意識消失するようになった。また右上肢のけいれんとは別に、全く前触れもなく突然腰・膝の力が抜け、尻もちをつく一瞬の脱力発作も出るようになった。発作が難治であるにもかかわらず、大学を卒業しその後、理学療法士の資格を得て病院勤務している。

精査した所MRIにて左頭頂葉にかなり大きな動・静脈奇形が見つかった。動脈と静脈が団子状に固まりをつくり、その中に小さな出血巣が沢山あった。

動・静脈奇形とは動脈と静脈が直接つながって塊をつくる一種の奇形である。通常は心臓から吐き出された圧力の高い血液は動脈を通り末梢まで行き、細い毛細血管となる。そこで酸素を放出し圧力が下がり、それが集まって静脈となり心臓に帰る。動脈が直接静脈につながることはない。動脈は圧力が高く直接静脈につながると、動脈の圧力で静脈が風船状に膨れ上がり時には破れる。

症例.60歳女性:従来から高血圧が指摘されていた。54歳の時、朝から頭痛、吐き気を訴え、次第に左片麻痺、意識障害を来たした。救急車で病院に運ばれCTにて脳内出血と診断された。緊急手術を受け2ヶ月間入院した。幸い左片麻痺もほぼ完全に回復したが、記憶力障害などの高次脳機能障害を残した。5か月後に初めてのけいれん発作が起きた。全身のけいれん発作である。その後もほぼ2カ月に1回の割で同様な発作が見られたが、抗てんかん薬によりほぼ完全に発作が抑制され、職場に復帰した。

MRIでは右前頭葉に巨大な組織欠損があったが、後遺症も軽く職場に復帰できたのは驚きである。もちろん脳出血でも発作を起こさない例も多々あることを追加したい。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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