26.広汎性発達障害(自閉症) (2005年5月号)

前回は学習障害(LD)と注意欠陥多動症候群(ADHS)について話しました。学習障害(LD)は「聞く」、「話す」、「読む」、「書く」、「計算する」、「推理する」などの能力のうち、特定のものの習得に著しく困難を示す子供のことである。主に「読み」が障害されているのを「読字障害」、主に「字を書く」能力が著しく落ちているのを「書字表出障害」、「算数」が落ちている子は「算数障害」と呼ぶ。

注意欠陥多動症候群(ADHS)は「注意の集中・持続」が困難で「落ち着きがない」ことが特徴である。行動は衝動的であり、自己中心的で内省力にとぼしいという特徴がある。これらの疾患はすべて小児の疾患ではあるが、それをそのまま持ち続けて成人になった場合も多い。

今回は広汎性発達障害(自閉症)とてんかんについてお話しましょう。
古くから自閉症という言葉が使われてきたが、この疾患の境界領域が必ずしも明確ではないので現在では自閉症およびその近縁領域も含め広汎性発達障害という名前で呼ばれるようになった。ここではまず典型的な自閉症の症状について述べる。

自閉症とは下記の特徴を持つ小児の発達障害である。

  1. 相互に社会的なコミュニケションがとれない。すなわち「目と目で見つめ合う」、「体の姿勢、顔の表情、身振りなど」の非言語性行動が取れない。そして他人の情緒に対して反応がとぼしい。楽しみ、興味、成し遂げたものを他人と共有すること(興味のあるものを見せる、指差す、もって来るなど)ができない。
  2. 言葉の発達の遅れがあり、個人的な対話がとれない。したがって仲間関係を作れない。
  3. 遊びも単純で、人形やおもちゃをその本来の用途として遊べず、回転させたり、直線に並べたりする事が好きで、同じことを執拗に繰り返す。「こだわり」行動である。無意味な反復行為、儀式的な行為にこだわり、他人がそれを変えようとするとパニックをおこし、癇癪を起こす。
  4. 気分は不安定で唐突な感情の変化があり、また些細な刺激で激しい恐怖を引き起こす事がある。
  5. 手を噛む、皮膚を引っかく、頭を壁にぶつけるなどの自傷行為がある。

このような症状は小児期に発症するが、その特徴は成人期に持ち越し、社会・家庭生活の支障となっている場合が多い。
この病気の本体は不明であるが何らかの脳障害が関与していると考えられる。逆に知的障害のある施設に行くと必ず上記症状をもつ多くの患者に遭遇する。そのような患者では脳波の異常やてんかん発作を持つ事例がまれではない。

治療は長期間かかる。薬物療法と療育・訓練療法が中心であるが、しばしば難渋する。決定的に有効な薬物も少ない。

また患者との長い係わり合いを通して、どうしたらこちらの意図を理解してもらえるか、あるいは患者の意図と習性をどう理解し、どう対処するかが課題である。時にはつらい忍耐も必要となる。世話する人も共倒れにならないようしなければならない。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)