25.注意欠陥多動症候群(ADHD) (2005年4月号)

前回は「学習障害」についてお話しました。全体的な知的レベルを見ると、さほど落ちているとは見えないが、それでもある特別な面で能力が著しく落ちているのを、「学習障害」という。すなわち全般的な知的発達に遅れはないのだが、「聞く」、「話す」、「読む」、「書く」、「計算する」、「推理する」などの能力のうち、特定のものの習得に著しく困難を示す子供のことである。主に「読み」が障害されているのを「読字障害」といい、耳から聞こえる言葉は理解できるのだが、文字の読みの正確さと理解力が落ちており、そのため学業成績や日常の活動に著しく障害をもたらしている。主に「字を書く」能力が著しく落ちているのを「書字表出障害」といい、鏡文字になったり、文字の一部が置き換えられたり、省略されたりしている事が多い。「算数」が落ちている子は「算数障害」と呼ぶ。

これらの人々は脳の機能障害があると推定されており、くわしい神経心理検査や脳の画像研究などでどの部の脳に障害があるのかが研究されている。

またこれらの子供では上記障害のため不安、抑うつ、こだわりや心理的ストレスのため、食欲不振、嘔吐、頻尿、など異常行動などを示すことも多い。

てんかん患者でもこの学習障害は多い。知的に明らかな遅れはないので、小・中あるいは高等学校に進学することはできるが、それ以上の進学はしばしば無理が生ずる。親の期待があまり大きく、かつ教育熱心な親の下ではストレスが高まって、ストレスによる身体症状が出てくるかもしれない。あまりむりしない方が良い。

この「学習障害」に似て、一部重複する点もあるが、「注意欠陥多動症候群」(ADHD)というのがある。これは子供の病気であるが、最近青年期や成人にも拡大されつつあり混乱をきたしている。

その最大の特徴は「注意の集中・持続」が困難であることである。したがって不注意による「ミス」が多く、必要なものをなくしたり、忘れ物も多い。話しかけられても一見聞いていないように見えたりすることもある。指示に従えず、物事をやり遂げる事が困難である。遊びにおいてもそのとおりで、注意があちこちに飛び、ひとつの遊びごとに集中できない。また精神的な努力を要することを避ける傾向がある。

「落ち着きがない」ことも特徴である。常に手足を動かしたり、いすに座っていても、もじもじとどこかを動かしている。席を立ったり座ったり、出歩いたり、時に教室を飛び出したりする。片時もじっと静かに座っておれない。忙しい。しゃべり過ぎなどもみられる。相手の質問が終わらないうちに答えたり、並んで順番を待てない。他人の話に勝手に割り込み、他人の行動を妨害したり邪魔したりする。行動は衝動的であり、自己中心的で内省力にとぼしい。また情緒不安定で気分や行動が変わりやすく、唐突な行動をとったり、腹を立てやすい傾向にある。

てんかん患者でもこの症状比較的多い。また抗てんかん薬のうち、フェノバールは特にこの症状を悪化させる事があるから注意が必要である。

インターネットをみると自分もこの注意欠陥多動症候群(ADHD)ではないかという記事が目立つ。そういえば私が子供のころ、母親に「この子は落ち着きのない子だ」といつも言われていたことを思い出す。ひょっとしたら私も注意欠陥多動症候群(ADHD)であったかもしれない。そんなこというなら誰でもこの注意欠陥多動症候群(ADHD)になってしまうので乱用は避けたい。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

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