109.あなたはどの科を選びますか(2012年4月号)

従来てんかん患者は精神科の医師が診ていた。しかし最近はてんかんを診る精神科医は少なくなってきている。てんかんはもう「心の病気」ではなくなり、脳の病気となったためでもある。精神科医は本来の「心・精神の病気」により時間と興味を割くようになり、てんかんという「脳の病気」には興味を示さなくなってきている。精神科医のてんかん離れである。したがって精神症状をもつてんかん患者はちょっと困った状況になってきている。

一方てんかんに興味を持つ小児科医は増えてきている。今やてんかん学会会員は小児科医が断然多い。小児てんかん、特に乳幼児てんかんでは新しいてんかん症候群が分ってきており、その分類も細分化されている。小児科医でなければ扱えない。私のクリニックでは就学前の小児は原則として小児科医に紹介している。

小児科では通常親が付き添う。それが行き過ぎると、治療は親任せとなっており、自分は診察にほとんど顔を出さない例も出てくる。そうなれば小児科医が患者を手放す時期でもある。

てんかん患者に興味を持つ脳神経外科医も増えてきている。てんかん外科が発達し、外科手術で発作が著しく改善する例が多くなってきたからである。脳の画像診断(MRIなど)で側頭葉深部に海馬硬化がみられる例では外科手術が積極的に勧められる。

てんかんに興味を持つ神経内科医は今のところまだ少ないが、これからはてんかん治療の担い手は神経内科医になるであろう。脳の疾患は神経内科の領域でもあり、てんかんもこの範疇に入る。しかし精神症状が出てくれば精神科医に相談を持ちこむことになり、精神科医と神経内科医の両方から薬が出ることもあるので、薬が多くなり混乱することもある。

アメリカではてんかん治療は神経内科医の領域である。精神科医が関わることはほとんどない。しかし一般の神経内科医はてんかんが苦手である。薬の微妙な調節と脳波の判読に特別な訓練と経験が必要だからである。そのため神経内科医はさらに脳波とてんかんの研修を2年間受けなければてんかんの専門医にはなれない。

今日本で、てんかんは小児科、脳外科、神経内科医、精神科医が扱っているが、その中でもてんかん専門医はきわめて少ない。それではてんかん患者はどの科に行ったらいいのだろうか。この点に関して少なくとも次の事柄が言える。

1. 就学前の子供は小児科を選んだほうがよい。

2. 発作の頻度が少なく少量の薬で抑えられている場合はてんかん専門医でなくても一般の神経内科医、脳外科医、精神科医などのどの科でもいい。

3. しかしてんかん患者の約半数は、時に複雑で専門的知識が必要とされる時がある。発作が繰り返して起こる時、ふらつきなどの薬の副作用が生じた時、幻覚妄想などの精神症状が生じた時にはてんかん専門医でないと扱うの難しい。

その際にはぜひてんかん専門医に相談したほうがよい。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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