66.知っていますか、人格検査について(2008年9月号)

てんかんと性格・人格については昔から議論されてきた。昔、クレッチマーはてんかんは闘士型(筋肉質)で、熱中しやすく、几帳面、凝り性、秩序を好む性格であるとした。このような性格を「てんかん性格」といったが、今はそのような言葉は誰も使わず死語になった。てんかんの国際分類が広く使われ、てんかん学が進歩した結果、てんかんに共通する性格などはありえないということが分かったからである。

昔てんかんに特徴的だといわれてきた性格傾向は「粘着性」、「爆発性」である。話が回りくどく、几帳面、些細なことにこだわる、時に容易に腹を立て、乱暴するなどのことをいう。このような性格傾向はてんかん患者のほんの一部に見られることはあっても、大部分のてんかん患者には当てはまらない。またてんかんでなくとも、脳外傷、脳卒中、知的障害などを持つ患者の一部にも見られる症状であり、特に前頭葉や側頭葉の精神症状と解釈される。

今まで各種の心理テストについて述べてきた。知能テスト、記銘力テスト、前頭葉機能テストなどである。これらは神経心理テストと呼ばれる検査で、主に脳機能の障害・部位診断に役立つものである。

これに反して性格検査という心理テストがある。脳の機能からいったん目を離して、性格を力動的、総合的、多面的に捉えようとする試みである。この代表的なテストに「ロールシャッハテスト」がある。このテストはロールシャッハによって考案された投影法人格テストで左右対称の図版上に書かれたあいまいなインクのしみが何に見えるかによって人格を把握する方法である。

カードは無彩色5枚、赤と黒2枚、多色刷りの3枚の計10枚をつかう。何に見えるか自由な反応を求める。この際、カードの方向、初発反応時間、終了時間、反応語、受検態度などを記録する。「これは何に見えますか」、「なぜそのように見えますか」などと質問することにより、図版のどこ(反応領域)に、どのよう(反応決定因)な、何を見たか(反応内容)を記録し、被験者の知的側面、情緒的側面、現実吟味能力、衝動や感情の統制のあり方、対人関係の特徴、病態水準、予後の予測などを多角的に解釈する試みである。

てんかんのロールシャッハテストは1960年代から1980年代に多くの学術論文があるが、最近は少ない。昔の論文を覗いてみると、その中には「几帳面」、「融通性にとぼしい」、「執着性」、「くどい」、などという言葉が繰り返してでてくる。

てんかん患者の性格はさまざまであり、十人十色、一人として同じ人はいない。社会家庭への適応の仕方、友人関係の持ち方など上手な人も下手な人もいる。
中には脳障害を持っており、知的障害も合併するひともあろう。加えて抗てんかん薬の影響も重要である。このような多様な症状を持つ病気を「てんかん」という言葉で一括論ずるのはナンセンスである。

てんかんおよびてんかん発作の国際分類が出来たが、その精神的側面はまだ手付かずの状態である。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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