61.知っていますか、PET(ペット)について(2008年4月号)

これまで脳波、CT、MRI、脳磁図、SPECT(スペクト)について述べてきた。脳の神経細胞は興奮すると微弱な電気信号をだす。この電気信号をキャッチするのが脳波である。電気の流れは磁力を伴う。それを記録するのが脳磁図である。脳の表面に多数の電極(センサー)をおき、どの部分に変化が現れるかを見ることによって、脳のどの部分が信号を出しているのかが分かる。この際脳の形は問題にされない。これに反してCT、MRIは脳の形態を見るもので、脳の形がゆがんでいればこの検査でわかる。

SPECTは脳に流れこむ血流の量を見るものである。脳は興奮すればその部に流入する血液が増えるのでこの検査でどの部の脳が興奮しているが分かる。

神経細胞が活動するエネルギー源は酸素とブドウ糖である。神経が興奮すればブドウ糖がその部に集積する。機能が低下すればブドウ糖消費量が落ちる。PET検査はどの部にブドウ糖が集積、あるいは低下したかをみる。すなわちSPECT、PETは脳の機能・活動性を調べるもので、脳の形が正常であっても機能が落ちていればこの検査でわかる。

今回はPET(ペット)についてすこし詳しく述べる。ペットといっても犬、猫などの愛玩用のペットではない。正式には陽電子放射断層撮影装置(ポジトロン・エミッション・トポグラフィー)の頭文字である。ポジトロン(日本語では陽電子)を放出する放射性医薬品を静脈に注射し、脳内でその取り込みを見る。一般的に保険診療として最もよく用いられているPET用薬剤は、F-18フルオロデオキシブドウ糖(FDG)と呼ばれる放射能を有する糖である。これらは半減期(寿命)が約20分と短いため、PET装置に隣接する小型原子炉(サイクロトロン)で作り、すぐこれを利用しなければならない。

患者はCT、MRIと同じような検査装置に入り、PET用薬剤を注射し約30分横になるだけ終わる、苦痛も伴わない検査である。てんかん脳の焦点部位は通常エネルギー代謝が低下しているので青白く映し出される。興奮すると赤味がかった色になる。

MRIで見られるてんかん焦点は、萎縮・変形した形に見えることが多いが、PETではてんかん焦点のみならず、かなり広範な部位でのエネルギー代謝の低下が見られることが多い。

たとえば側頭葉内側部(海馬、扁桃体)にてんかん焦点がある場合には、MRIでは同部に萎縮が見られるが、PETでエネルギー代謝を見ると側頭葉内側面のみならず側頭葉外側面や大脳の深部にある視床、線条体と呼ばれる大脳核、さらには反対側小脳など遠隔部にも機能低下があることが分かることが多い。

てんかん焦点はその部の機能脱落のみならず、脳のもっと広い範囲に影響を及ぼしているようである。

ついでながらPETはアルツハイマー病など認知障害の診断にも威力を発揮する。脳が萎縮する前に脳の機能が低下していることが分かるからである。また癌の診断にも役に立つ。癌は正常細胞の3~8倍ものブドウ糖を摂取するので、それがPETで分かるのである。ただし必ずしも保険適応が認められわけではないので、大変高額な検査となる。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)