60.知っていますか、SPECT(スペクト)について(2008年3月号)

これまで脳波、CT、MRI、脳磁図について述べてきた。脳波、脳磁図は脳の電気的な変化やそれに伴う磁場の変化を記録するもので、脳の機能を見るものである。これに反してCT,MRIは脳の形態を見るもので、この機能と形態は必ずしも一致しない。形がゆがんでいても機能がしっかりしている場合もあり、形が正常でもその部の機能が損なわれている場合も多い。

スペクト(SPECT)は脳に流れている血液の量を調べる検査であり、てんかん焦点の検索には欠かすことが出来ない重要な検査の一つである。

先に述べたとおり、CTやMRIは脳の形を見る検査法であり、脳の形がゆがんだり、一部欠損したりしていればこれでわかるが、てんかん患者では脳の形にゆがみや欠損がなくとも、その部の機能が落ちている場合がよくあることである。形は正常だが、働き(機能)が落ちているというのがそれである。

このSPECT検査はごく微量の放射性物質を含む薬(放射性薬剤)を静脈内に投与し、その放射性薬剤の分布状態などから、脳の血流(血液の流れの状態)をみる検査で、血流が豊富なところは赤く、貧弱なところは青くうつる。てんかん以外にも脳梗塞や脳出血・痴呆などの診断や治療効果の評価などにも用いられる。

またこの放射性薬剤は、時間ともに放射能が減っていき、数時間~数日でなくなってしまうので、検査時間に合わせて、この薬剤を作る必要がある。

一般にてんかんの場合、てんかん焦点では、血流量が落ちている場合が多い。したがってこの検査で、血流量が落ちている場所があれば、そこがてんかん焦点の可能性が高くなる。そして発作時には逆にこの部の血液の流れが急速に増加するのである。これがてんかん脳の最大の特徴である。すなわち発作が起きていない時(発作間欠時)には血流が少なくなり、青白く染まるが、いったん発作が始まると、その部の血流が急激に増加し赤くそまる。しかしちょうど発作を起こしている時(発作時)にSPECT検査をするのは容易ではない。検査室で発作が起こるのを待ち、発作が起こった瞬間を捉えて放射性薬剤を注入しなければならない。そのタイミングが難しい。しかし発作間欠時には血流が貧弱で、SPECT像が青白く染まっていたのが、発作開始と同時に急速に血液量が多くなり、赤く染まるのを確認すれば、そこがてんかん病巣(焦点)と診断がつく。特にこれはてんかんの外科を考える場合は欠かせない重要な検査となる。

脳は活動するとその部に血液が集中的に増加するという機能がついている。たとえば言葉を発すると言語中枢の血液が増加し、考え事をすると前頭葉のある部分に血液の流れが増加する。ものを見ると視覚領野が、音を聞くと聴覚領野の血流が増加する。つまり血液の流れや量を見ると、脳のどの部分が興奮しているか分かるのである。脳は興奮するとその部の血管が拡張し、血液を流入させ、働きすぎても酸欠状態にならないような機能がついているのである。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

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