65.知っていますか、前頭葉機能検査について(2008年8月号)

前回は記憶力検査についてのべた。一般にはウエクスラー式記憶検査が用いられる。記憶は頭の良し悪しとは直接関係がない。知能指数が低い知的障害者でも抜群の記憶力を持っている人がいる。過去何年もの過ぎ去った色々な事実を事細かく覚えており、これからの予定表などもきっちりと頭に入っている人がいる。すばらしい記憶力だが、人によってはそれがむしろ障害になっていることもある。昔のいやなことなども細かく覚えており、時に思い出してはパニックになる知的障害者などである。彼らは記憶を消し去る「消しゴム」を持っていないのである。「忘れる」ということも時には大切である。一般に都合が悪い事は忘れやすい。借金も貸した方は忘れないが借りた方が忘れるなどというのもその類で、しばしばトラブルの原因となる。

今回は脳の前頭葉の機能を測定する話をしましょう。

脳の前頭葉がやられると高次脳機能障害が起こる。これは認知障害ともいわれる。周りの状況を認識する力、物事の良し悪しなどを判断する力、物事の整理・整頓やその手順を考える力、問題解決に努力する集中力・注意力などが前頭葉の機能です。ここがおかされると認知力、判断力、記憶などがおかされる。また気分も変わり、興味の喪失、無気力状態などの「うつ病」に似た症状や、性格変化が起こりえます。「頑固な人がますます頑固になった」などというのがそれです。

これら前頭葉の機能を測るテストの代表的なのが「ウィスコンシン カード・ソーティング テスト」 と呼ばれるものです。簡単に説明すると隠れたルールを見出す力とそのルールが突然変更されたとき、その変更に気づく能力を測るテストです。

たとえば出題者は被験者にトランプを順に3枚並べます。たとえばハートの1,2,3と順に並べておき、次にハートの4を出して「はい」か[いいえ]かを相手に問います。正しいと思えば、「はい」、正しくないと思えば「いいえ]と言ってもらいます。「はい」「いいえ」が正解であれば出題者は「正解」、間違っているときは「不正解」とだけいいます。

ここに隠されているルールは、
(1)トランプの種類はハートであること、
(2)そして数字は1から順に増えていっていることです。

この隠れているルールを読み取らなければなりません。
そしてこのルールは突然変更することがあります。
この変更も読み取らなければなりません。

実際には4色の三角形(1~4個)、星型、十字型、丸などの図形カードを示し、被験者に対して色・形・数の3分類カテゴリーのいずれかに従い、順次カードを示し、そこに隠れているルールを読み取ってもらいます。

このテストはちょっと複雑ですが、前頭葉がそもそも複雑に出来ているので、その検査も複雑にならざるをえないようです。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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