36.てんかんと性同一性障害 (2006年3月号)

最近、性同一性障害という言葉をよく耳にする。男あるいは女性が本来の自分の性とは違う反対の性でありたいと思う人々のことである。

たとえばある男の子が幼少時より人形遊びなど女性としての遊びに心を奪われ、好んで少女や女性の衣装を着用するようになる場合がある。少女としての遊戯やゲームに加わることに強い関心を示し、女の子の人形がしばしばお気に入りの玩具で、遊び相手はいつも女の子ときまっている。

逆に女の子の場合は、男の友達をもち、スポーツや粗野で転げ回る遊びに強い関心を抱き、「ままごと遊び」などで女性の役割を演ずることはほとんどない。服装は常に男っぽく、活発で男として扱われるよう固執する。

このような人が成長するにつれて、男の場合には、自分が男性であることに強い不快感を持ち、女性として生きたいとい思うようになる。男性性器などはなくなればいい、むしろ取ってしまいたいと思うようになる。逆に女性の場合は、女性としての自分に強い不快感を持ち、男として生きたい、男として扱われたいと願うようになる。乳房が膨らんだり、生理が始まると耐えがたき嫌悪と不快感が生ずる。自分は誤って別の性に生まれてきたと強く感ずる。これが性同一性障害である。

このような人々は自分とは反対の性に固執するため、しばしば同性の友達から「いじめ」や「仲間はずれ」にあうことが多い。反対の性になりたいと思うあまり、性の転換手術を願うようになる。

かれらはまた性の倒錯とよく間違われる。男性が女装して、あるいは女性の下着を盗んで着用して性的快感を得るのは性の倒錯であって、フェテイシズム的服装倒錯症といい、性同一性障害ではない。性同一性障害の男性は女装したからといって、それは彼の当然で普通の姿なので、これでもって性的快感を得ることはない。女性の場合も同様である。

最終的には性転換手術という方法があるがこれはより慎重であらねばならない。一時的な思いつきで手術を行ってはいけない。親の承諾が必要かどうかという問題もある。それからホルモン療法など段階的な操作もありうるだろう。

最近立て続けに3例の性同一性障害に出会った。

1例は女性で2例は男性である。彼らのうち2人はてんかんである。女性の1人はこざっぱりとした男性の服装をしていたので、私はてっきり男性と勘違いして、「私は性同一性障害です」と告白されたとき、思わず「あなたは女性になりたいのですか」と聞いたら「いや男になりたいのです」という返事があり、私は一瞬混乱した。

彼女はその後ついに乳腺摘出術を受けた。そしてこれから名前を男名に修正するのだという。彼女の悩みを聞いているうちに「何もそこまでやらなくても今でも十分男らしいじゃありませんか」とつい反論してしまったが、しかし彼女は「手術してさっぱりした、これで十分です」とも言った。

私はこれらの患者さんを通して、彼らは自分自身の性の悩みに付け加えて社会的な悩みという二重の苦しみを持っていることを学んだ。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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