17.てんかんに合併する心の問題:偽発作(その3)(2004年8月号)

前回は偽発作のいろいろな症状について話しました。てんかん発作に似たてんかんでないさまざまな発作がありうること、例えば(1)健忘(物忘れ)、(2)遁走(急に逃げる)、(3)混迷(ぼんやりする)、(4)後弓反張(背中を弓なりに伸ばすけいれん)、(5)突然の知覚過敏や盲目、視野狭窄(ものが見えなくなる)、(6)自律神経症状(めまい、動悸、震え、失神、発汗、過呼吸、息ごらえ発作)などが偽発作の症状の主なものです。あるいは急に不安、恐怖、焦燥感などパニック障害もまたてんかん発作と間違われる場合もあります。このように偽発作は実にいろいろな症状を取ってくるので、本物のてんかん発作と区別するのに骨が折れるばあいもあります。脳波検査は重要であるのは事実ですが、しかし脳波に頼りすぎるのも危険があるとお話しました。健康正常者でも数%に脳波異常がありうるし、てんかん患者がてんかん発作と偽発作の両方を持っている場合は脳波検査ではそれらを鑑別できないのは当然です。疑わしい場合は長時間(24時間以上)脳波を記録して発作が現におきたそのときの脳波(発作時脳波)を見るのがベストですが、これができるのはごく限られたてんかん専門の施設しかありません。

それではどうやって偽発作を本物と区別したらいいのでしょうか。

1.本物の発作は突然おこり、いつ起こるか予期できません。発作がストレスなどの誘因があってあらかじめ予測がつく場合は偽発作の可能性があります。

2.本物のてんかん発作であれば、発作の様態がある決まった一定のパターンをとります。「たとえば前兆に引き続き顔が左に引きつれ、右手を前方に伸ばし左手は下方に伸ばし、その後ぼんやりした表情になって、舌なめずりしながら、歩き回るなど」など秒単位で変化する発作の形がいつも同じなのです。発作には強い発作と弱い発作があり、弱い場合は経過中の途中で終わってしまう場合があるかもしれません。また前兆だけで終わってしまうこともあるかもしれません。強い場合は発作の広がりが、はっきりせずいきなり大発作に至ることがあるかもしれません。しかしおおむね発作の進展は同一パターンをとるものです。右に移ったり左に移ったり、パターンが一定でない場合は偽発作が疑われます。

3.発作の持続時間は真の発作であれば一般に数分以内ですが、15分とか30分とか長く続く場合は偽発作が疑われます。例外として発作重延状態があります。例えば複雑部分発作の発作重延の場合は、もうろう状態が数時間以上続く場合がありますが、この際は脳波を取ればすぐに解決します。

また抗てんかん薬が多すぎて副作用として眠気、動作緩慢などが見られる場合、偽発作を悪化させることがあるので注意しましょう。

いずれにせよ疑わしい場合は専門家に相談し、本物と確信がつくまでは抗てんかん薬の投与は慎重にありたいものです。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)