てんかん発作は通常、突然起こり予測がつかないのが普通である。しかし中にはある特定の状況下で発作が起こる場合もある。例えばいわゆる「テレビてんかん」などはテレビを通して目から入った光刺激が発作の引き金になっている。アニメ番組による「ポケモン発作」もこのひとつである。この際発作の引き金(誘因)と発作という関係がはっきりしているのでこれを「反射てんかん」と呼ぶ。「びっくりてんかん」もそのひとつである。突然予期しない音にびっくりして発作を起こす場合(驚愕反射てんかん)である。
しかし発作の引き金があまり明瞭でなく、その関係もあいまいである場合も多い。例えば「過労、睡眠不足」などがそれである。今回はこのような日常生活によく見られる発作の誘因に焦点を当てて考えてみよう。
1. 寝不足:睡眠不足はてんかん発作の最大の敵である。特に特発性全般てんかんといわれるてんかんは思春期・青年期に発症する全身のけいれん発作であり、治りやすいてんかんではあるが、睡眠不足で発作が引き起こされるという特徴がある。生活が不規則になり、夜遅くまでおきていると、その翌日発作を起こす可能性が高くなる。脳波に異常がなかなか出ない人に、徹夜してもらって、翌朝脳波を取ると異常が出やすい(断眠賦活)という事実がある。生活の不規則については、親がいくら注意しても本人はいたって無関心で、聞く耳をもたない場合が多い。しかし一般に何回か失敗して発作を起こし、そして自ら気がつくことが多いので、親はそれまでじっと辛抱して待つ以外ない。
2. 緊張、不安、興奮で発作が起こるというケースは時に見られるが、しかしはっきりしないようである。むしろ緊張、興奮のため眠れなかったことが、発作の引き金になるらしい。一般には緊張から開放され、一段落してやれやれと休息しようとしたときに発作が起こる事が多い。特に側頭葉てんかんの複雑部分発作はその傾向が強い。しかし発作がおきそうになったら、気持を変えて深呼吸したり、胸をたたいたりして「力んで我慢すれば」発作を止める事ができる場合もあるので、各自試してみたらよい。
3. 月経:女性では生理と一緒に発作が起こることは珍しくない。月経てんかん(catamenial epilepsy)という言葉があるとおり、生理の直前か最中に起こりやすいのも事実である。ホルモン(エストロゲン)活性の増加、水分の貯留が原因らしい。
4. 少量のアルコールが発作を誘発するかどうかははっきりしない。少量で適度な飲酒はあまり害は無いようである。しかしアルコールは抗てんかん薬の血中濃度に影響を及ぼすのは確かである。代謝が促進され血中濃度が低下したり、逆に血中濃度が急激に増加して副作用がでる事があるので、多量のアルコール摂取はひかえるべきである。
5. 発熱:小児では特に発熱は発作を引き起こしやすくする。てんかんをもつ小児で、38度を超えた時には、解熱剤の座薬があるので早期に使ったほうがよい。
6. その他身体の不調:深酒、断眠、風邪など体の不調と合わさって、一生涯に一度だけの偶然に発作が起こる事がある。これを偶発発作と呼び、てんかんとは言わない。この診断には専門医の慎重な判断が必要となろう。
「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一
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