40.てんかんの原因、遺伝について その2 (2006年7月号)

前回は「特発性てんかん」について述べた。これは遺伝が関与するてんかんである。そして治りやすいてんかんの代表でもある。この群は、ある年代になって初めて発作が出現し、その年代を超えると自然に治癒する可能性が高いという特徴を有する。たとえば小児欠神てんかんは、数秒の意識消失発作が小学生ごろに発病し、成人式を迎えるころには、消失するのが常である。脳にキズがないので、知的障害などの合併は無いが、どういうわけか生来、脳神経細胞が興奮しやすい性質を帯びているので発作が起こる。

一方遺伝がより濃厚に関与し、きわめて治りにくいてんかん群がある。「進行性ミオクローヌスてんかん」と呼ばれる一群のてんかんがそれである。これはかなりまれな病気で、通常のてんかん外来ではあまりお目にかかることは無い。私自身は過去25年間に10数例の症例にお目にかかっただけである。この疾患は脳が次第に侵されていくので、最後には痴呆状態、寝たきりになる進行性の神経難病である。最近この疾患の研究が進んで、この中にも色々な疾患単位があることが分かってきた。

この中にはDRPLAと呼ばれる1群がある。歯状核赤核淡蒼球・ルイ体萎縮症という長い複雑な病名が付いている。小脳・脳幹が冒される病気で、比較的日本に多い。外国にはほとんど見られない。常染色体優性遺伝であるので、親から子に伝わる。病気の親から生まれた子供の半数に症状が出現する。親は成人になってから発症するので結婚して子供ができてから症状が出ることが多い。しかしその子供は親より早く発症し、より重篤である。親から子へと年代を経るにつれて重傷度が増すという特徴がある。その症状は小脳性失調といわれる「手足のふらつき」から始まる。てんかん発作も加わり、漸次進行し痴呆も加わり、次第に歩行が困難となり最終的には寝たきりとなる。てんかん発作は大発作とミオクローヌスといわれる手足を一瞬ビクつかせる発作が特徴である。遺伝子の坐が同定され、今では遺伝子診断が可能である。

また「進行性ミオクローヌスてんかん」と呼ばれる疾患の中で「ウンベリヒト・ルンドボルグ病」といわれるものがある。ヨーロッパなかんずくバルト海沿岸・および地中海沿岸部に集中して見られる。日本にはほとんど無いと思われてきたが最近本疾患が日本にもあるということが分かってきた。本疾患は常染色体劣性遺伝であるので、親から子供には伝わらない。両親がその遺伝子異常を同時に持っているとその子に2人に1人の確率で同疾患が発症する。中学生のころからミオクローヌスとてんかん大発作が発症して、小脳性失調症も加わり、歩行が困難となる。車椅子までいたることもあるが通常進行はそこまでである。本疾患も最近遺伝子診断が可能になった。

このようなてんかん発作を持つ難治な神経疾患があることも知っておかなければならない。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

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