133.発作の裏にある脳の病気:その22 アルコール依存症(2014年4月号)

私もお酒が好きでよく飲む。時には飲みすぎて翌朝、飲んだ時の記憶がないこともある。日本酒は二日酔いすることが多いので注意しているがついうっかり飲みすぎてしまい、翌朝一応反省する。焼酎、ウイスキーはロックでのむ。水割りは水っぽいのであまり飲まない。暑い季節のビールは最初の一杯はさわやかで美味いが、いくら飲んでもお腹がいっぱいになるだけで酔わないので、そのうち日本酒か焼酎になる。最近はワインを愛用している。フランスワインは、ブルゴーニューは軽くボルドーは重く瓶の格好まで違うということを最近になって知った。

私の飲酒は「機会飲酒」で、家ではあまり飲まない。毎日飲むようになると「習慣性飲酒」となり、アルコール依存症への一歩手前になる。やめられなくなれば立派なアルコール依存症である。アルコールが切れると頭痛、イライラ、不眠などが出て「身体的依存症」が完成したことになる。

ここにてんかんを合併した症例を載せよう。患者は50歳台の男性、元来、やさしくて気弱な半面があったが、人間関係でぎくしゃくし、お酒におぼれるようになった。お酒はもっぱら焼酎だった。ここ10年ぐらい毎日飲んでいたが、最近精神的に落ち込むことが多く、うつ状態となり閉じこもり気味になった。勘違い(被害妄想、追跡妄想)があり、誰かが自分を追いかけてくるなどというようになった。当院を受診したさい、最初は飲酒歴を否定していたので、私はすっかり、不安性障害、うつ状態と考え、抗うつ薬、精神安定剤等を与薬した。そのうち物忘れも見られるようになった。同じことを何度も言い、妻と娘を勘違いするなどがでた。脳のMRIで大脳の委縮が見られたので、認知症の合併と考えた。

受診後2-3日飲酒をやめたらしい。そしてある日朝起きて間もなく「離脱症状」が現れた。イライラ感、発汗、手指や全身の震えとさらに意識がもうろう(振戦せん妄)となった。

幻覚(小動物、虫が見える)も出現した。数時間後には全身けいれんが、1時間間隔で2回見られたため、ある病院に救急入院した。そこで初めてアルコール依存症であるとわかり、精神科での入院が必要と考え転院してもらった。

アルコール依存症の「離脱症状」症状は激しく、みんながびっくりする。精神科と内科の共同治療が必要となる。

アルコール依存症が長引くとウェルニッケ‐コルサコフ症候群という高度の記銘力障害が来る。また幻覚・妄想状態などを合併したり、手足の知覚が麻痺することもある。手袋や靴下を履く部分に知覚鈍麻が来て、頑固なしびれを訴えることも多い。

通常けいれん発作は一過性に終わるが時に再発を繰り返す場合もある。アルコール依存症は本人はもちろんのこと家族も巻き込むことが多く、家庭騒動が起こる。お酒は適量が大切である。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

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