てんかんとは?(「波」2019年4月号掲載記事より その2)

二つ目は、てんかんの診断を理解するための記事です。


2 てんかんってどう診断するの?

先ほど説明したとおり、てんかんは、てんかん発作を繰り返す(あるいは繰り返す可能性が高い)病気です。てんかん発作のないてんかんはありません。したがって、てんかんかどうか診断する上でもっとも大切なのは、てんかん発作があるかどうかを判断することです。

A 発作症状を詳しく知る

ある症状がてんかん発作なのかどうか、それを判断するのに一番大切なことは、発作の症状を詳しく知ることです。お医者さんが直接発作を見ることができれば一番いいのですが、なかなかそういう機会は少ないです。したがって医師は、発作が起こったという訴えの患者さんが来院した場合、まず患者さんご自身がどういう症状を感じたかを詳しく尋ねます。

ただし、てんかん発作にはいろいろな場合があります。例えば、突然に意識を失うことで始まり、その後のことは自分ではまったくわからず、気が付いたら救急車を呼ばれていた、という発作も多いです。その場合にはご自分では症状がわからないので、ご家族など目撃者によるお話が重要になります。患者さんご自身・目撃者どちらでも、最初どのようになって、その後どのように倒れて、倒れた後はどうなったか、けいれんしていたのであればどんなけいれんだったのか、そしてけいれんが終わった後はどんな様子だったかと、時間の順番を追ってお話していただくとわかりやすいです。時間の順番が重要です。

特に重要なのは発作の始まりの症状です。ご本人が「突然に意識を失ったので何も覚えていない」という場合でも、医師が詳しく尋ねてみると、たとえば意識を失う直前の何秒かほど、急に両手がビクビクっと跳ねるように動いた、とか、急に目に光るものがぴかぴかと見えたとか、そういったわずかな症状を感じていることがあります。こういった、発作の始まりの軽い症状は診断に非常に重要です。

「初めてけいれんを起こした」ということで病院を受診した患者さんに、医師が詳しく尋ねてみると、そのような軽い症状をけいれんの直前に感じていた、ということが明らかになることが時々あります。その場合には医師はさらに、そのような軽い症状が以前にもあったかどうかを尋ねます。けいれんには至らずとも、過去に同じような軽い症状を何回か繰り返しているという場合には、てんかん発作の可能性がかなり高くなります。

先ほど、てんかん発作は脳の神経ネットワークに過剰な電流が流れるための症状だとお話しました。どのネットワークが発作に巻き込まれるかによって、現れる症状は異なります。脳の神経ネットワークは数えきれないくらいたくさんありますので、てんかん発作の症状も非常にたくさんあります。ただし、同じ患者さんであれば、基本的にはいつも同じ神経ネットワークから発作が始まり、それがいつも同じように他のネットワークに広がっていきます。したがって同じ患者さんであれば、いつも同じ症状から始まり、いつも同じ時間経過をとって症状が変化していきます。この、いつも同じであることを「常同的」と言います。てんかん発作の最大の特徴が、この「いつも同じであること(常同性)」です。

すなわち、「発作」を繰り返している患者さんを医師が診る場合、その発作症状をひとつずつ丹念に尋ねて、いつも同じであるかどうか(いつも同じ症状で始まり、時間経過とともにいつも同じように症状が変化していくかどうか)を判断することが、てんかん発作の診断の最重要ポイントです。

ただしその際、同じ患者さんでも、発作の強い弱い(重い軽い)による違いはあります。発作が軽くて最初の小さなネットワークだけで終わる場合には、最初に現れる症状だけで発作が終わります。発作が少し強くて他の神経ネットワークまで広がってしまうと、最初の症状に引き続いて次の症状が現れてきます。発作がとても強くて、脳の神経ネットワークのほぼ全体に広がってしまうと、意識を失い全身の強いけいれんが生じます。これが一番強い発作になります。

したがって、患者さんあるいは発作を目撃されたご家族の方は、医師に対して、ひとつひとつの発作について、どんな症状で始まり、次にどうなって、次にどうなったか、という風に時間の順を追ってなるべく詳しくお話できるようにしておくことが大切です。

B 脳の画像検査

てんかんの診断で二番目に重要なのが頭部の画像検査です。画像検査、すなわち頭部のCTあるいはMRIは、早めに一度は撮っておくべきです。ただし、画像検査は「てんかんである」と診断するための検査ではありません。これはよく誤解されやすいところです。画像検査の最大の目的は、てんかん以外の病気がないかどうかチェックする(このことを「除外診断」といいます)ことにあります。

たとえば、急に倒れてけいれん発作を初めて起こした場合を考えましょう。この場合、てんかんという病気が初めて発症したのかもしれませんが、あるいは脳出血を起こして、急にけいれん発作を起こしたのかもしれません。もしも後者の場合なら、緊急に脳出血の治療を始めなければなりません。そういうことを調べるために、画像検査はとても重要です。それによって、脳出血や脳炎や脳腫瘍など、てんかん以外の何か重要な病気がないか、その治療が早急に必要かどうかを調べることが最大の目的です。

画像検査には他にも目的があります。「海馬硬化」とか、「扁桃体腫大」とか、「皮質異形成」とか、「血管腫」など、てんかんの原因になりうる傷や変化があるかどうかをチェックすることです。ただし、たとえば海馬硬化があるからといって、それだけでてんかんと診断することはできません。てんかんかどうかの診断はあくまで、症状としててんかん発作があるかどうかによります。画像検査は診断の参考になる大切な検査ですが、それだけで診断をつけることはないのです。

C 脳波検査

さて、てんかんかどうかの診断に大切な三つめは、脳波検査です。脳波は、てんかんを疑う場合には必ず行う検査です。ただし、ここでもしばしば誤解されていることがあります。脳波だけでてんかんと決定したり、てんかんでないと決定することはできません。てんかんどうかは、あくまでてんかん発作が(慢性的に)あるかどうかで決まります。たとえ脳波でてんかん性異常脳波が出ていても、てんかん発作がなければてんかんとは診断できません。

ありがちな間違いの一つが、「症状からは良くわからないから脳波をとったところ、脳波に異常があったからてんかんだ」、という考え方です。そうではなくて、「症状からてんかん発作が疑わしい、それで脳波をとってみたら、その症状に見合った脳波異常が見られた、だからてんかんと診断する」、という考え方が正しいです。脳波はとても大切な検査ですが、あくまで診断の補助に使う、という姿勢が大切です。

もう一つありがちな間違いは、「てんかんを疑う症状があるので、脳波をとってみたが、てんかん性脳波異常がなかった、だからてんかんではない」、という考え方です。てんかんであっても脳波に異常が見つからない場合は、珍しくありません。症状からてんかん発作らしいということがかなり確実に分かる場合には、脳波が正常でも、てんかんと診断します。脳波は、あくまで診断の補助、ということですね。

この二つの間違いは、実際の臨床現場でときどきあることですので、良くお医者さんの説明を聴いて、疑問に思ったらしっかり尋ねてみてください。説明に納得がいかなければ、てんかんを専門に診ているお医者さんを受診し意見を求めると良いと思います。

D てんかんと診断したらすぐ治療するの?

以上をまとめますと、てんかんの診断で一番重要なのは、発作症状を詳しく検討することです。次いで、MRIやCTでてんかん以外の脳の病気がないか調べ、脳波を検査して、診断します。

てんかんと診断したら、お医者さんはその原因は何かということを考えながら、さらにてんかんの病型や、てんかん症候群を、なるべく詳しく診断します。そのために必要な検査がある場合には追加で検査します。そして、すぐ治療が開始されるでしょうか? いえいえそうではありません。てんかんと診断することと、治療を開始することはイコールではありません。てんかんであっても、何も治療しなくても自然に治るタイプのてんかんがあります。その場合には治療せず様子をみます。また逆に、まだてんかんとはっきり診断できなくとも、社会的な事情などから、予防的に薬をしばらく飲みたい、というケースもあります。医師は患者さん一人一人の状況や希望に応じて、治療開始するかどうかを決めていくわけです。

3. てんかんの治療 に続きます。


この記事は、「波」2019年4月号に掲載されたものです。
日本てんかん協会のご厚意により掲載させていただいています。
転載はご遠慮ください。(加藤昌明)