144.これてんかん発作?あるいは睡眠時異常行動症?(2015年3月号)

睡眠時に異常な行動を起こす病気がある。てんかん発作と見分ける必要があるが、それが難しい場合が多い。てんかん発作であれば抗てんかん薬での治療が必要であり、それで改善される場合が多い。てんかん発作でない場合には別の治療法が必要となる。

睡眠時てんかん発作は多くは入眠後まもなく、あるいは睡眠から覚醒するときに起こりやすく、発作の持続時間も1-2分と短い。発作の多くはけいれん発作であり、けいれんがはっきりしているときは診断に迷わないが、複雑な自動症を示すときや、持続時間が長いときは診断に迷うことがあり、睡眠時異常行動と鑑別が必要となる。

睡眠てんかんはほとんどが、部分発作で前頭葉あるいは側頭葉起源であるので、脳波所見がそれをサポートするときは、テグレトールが最も効果が期待される薬剤である。

前回の記録でも述べたが、睡眠時異常行動は「睡眠随伴症状」ともいい、代表的な疾患は(1)睡眠時遊行症(夢中遊行)(2)レム睡眠行動障害、(3)睡眠薬の副作用(健忘・過食など)(4)むずむず脚症候群および周期性四肢運動障害、(5)解離性障害などが代表的な病気である。

「睡眠時遊行症(夢中遊行)」はいわゆる「寝ぼけ」である。入眠後まもなく起こり、あちこち歩き回ったりする。小児に多いが成人でもある。(2)「レム睡眠行動障害」は夢を見て騒ぐ状態を指す。寝言で始まり、時に殴ったり、蹴ったり、走り出したり、暴力をふるったりすることがある。高齢者に多い。(3)睡眠薬の副作用(健忘・過食など)では睡眠薬を飲んで寝た夜、夜間突然、起きだして、冷蔵庫から食い物をあさったりする。外に出てコンビニで買い物したりするが、翌朝まったく覚えていない。これを一過性前方性健忘という。翌朝残飯などが残っているので自分のとった行動にびっくりする。(4)むずむず脚症候群は足がムズムズと不快な感覚がおこり、そのため足を動かしたいという強い気持ちが生じる。足を動かすとその不快な気持ちは和らぐ。(5)解離性障害は心因性(心の葛藤)などが原因でおこる。通常1-数時間と発作時間が長く、ほとんどが覚醒時に起こることが多いので鑑別は可能である。

例を示そう。 50歳 男  18歳ごろ学生時代夜中睡眠中にけいれん発作に親が気づいた。その頻度は月1回程度であった。

自分では一切気づいていなかったが治療を開始し、再発はなかった。ここ数年前から仕事のストレスが高じてうつ病の診断を受けた。記憶力も落ち、人の名前が出なくなったりした。体もだるく、意欲も低下したので、3か月ほど休職することになった。その頃より入眠後まもなく、苦しそうにもがく2-3分のエピソードがあり、また夜間突然起き上がり部屋の周りを動き回るようなこともあった。

てんかんかどうかが問題となったが、脳波で側頭部に発作波を認めたことと、テグレトールの投与で治療に発作は治まり、てんかんと診断された。てんかんで発作が治ってよかった。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

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