63.知っていますか、知能検査について(2008年6月号)

一般社会によく適応している人と、適応できていない人がいます。適応できている人は職を持ち、自立し、それなりの家庭・社会生活を楽しむことが出来ます。てんかんの方でも家庭・社会的に適応している方と、そうでない方がおられます。適応が難しい方は何が原因で適応できないのでしょうか。

障害になっている一つの側面は、知的側面です。知的に欠陥があれば理解力が落ちてきます。注意力も落ちているかもしれません。記憶力も落ちているかもしれません。「相手の言わんとしていることをすばやくしかもしっかり理解できるか」。「自分を取り巻く状況をしっかりと認識しているか」などがポイントです。また知的障害があると一般に動作が緩慢になります。すばやく反応するのが苦手になります。したがってなにをやらせても反応が遅く、動作が鈍いといわれます。そのような方は知的障害があるのかもしれません。

もう一つ大きな障害になっているのは情緒面です。いくら知能が高くても、いつもイライラして他人に当り散らしているようでは対人関係がギクシャクして、社会に適応できなくなります。そのためには自分の怒りをコントロールする必要があります。怒りの感情は誰でもあり、自然なもので、自己を防衛するには不可欠な重要な感情です。怒りの感情が無ければ他人の言うままになって、好き、嫌いも表現できず、反発も出来ないまま、自己が壊滅するでしょう。怒りの感情はあたかも「痛み」の感覚に似るようです。「痛み」が無ければ、やけどしても怪我しても気づかないし、結果的には体中傷だらけになって早死にします。しかしいつも怒りを発散しているようでは対人関係がうまくいきません。怒りをコントロールする必要があるのです。

つまり人は知的な側面と情緒的な側面があり、この両者が安定していなければ、社会適応は困難になるでしょう。適応できなければ結果的にはやけを起こして自棄的になるか、あるいは一歩も外に出ない「引きこもり」の状態になるかもしれません。

知的側面を評価するのが知能検査です。これは人の理解力、記憶力、集中力、判断力、手先の器用さ、反応性の速さなどを評価するものです。しかしこれでは情緒面の評価は出来ません。したがって知能検査は社会適応能力の一部分しか評価していないことをはじめから頭に入れておくべきです。知能指数(IQ)ですべてが決まるわけではないのです。

現在今16歳以上で一般によく用いられている知能テストはウエクスラー成人知能検査(WAIS-R)です。

言語性尺度には知識、数唱、単語、算数、理解、類似の6項目、動作性尺度には絵画完成、絵画配列、積木模様、組み合わせ、符号の5項目があり、結果は各テストごとに得られた粗点から換算表を用いて、それぞれ言語性IQ、動作性IQ、総合IQを求めます。

平均は100点ですが脳に障害があると言語性と動作性の乖離が見られたり、学習障害のようにある項目に特に落ち込みがひどいなどが見られたりします。

また脳障害が左右のどちらにあるかなど、ある程度このテストで分かります。知的に問題があれば一応この試験を受ける必要があるでしょう。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

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