34.女性生理とてんかん発作との関係 (2006年1月号)

一般に女性の生理(月経)と精神状態は密接な関係があるようである。健康正常な女性でも生理(月経)の前・あるいは最中に精神状態が不安定になりやすい傾向がある。「月経前緊張症」という言葉があることを見てもこのことは理解される。

てんかん発作が生理に関連して出現したり、あるいは特にこの間発作が増加するがあり、これを「月経てんかん」とよぶ。女性てんかんの1/3から半数近くが生理と関係があるといわれている。起こりやすい時期は生理の始まる数日前から開始後の2-3日までであり、その後発作は起こらない。「月経前緊張症」も生理の直前から生理開始直後まで続き、その後はまた正常に戻る。この間不機嫌、いらつき、不眠、抑うつなどが現れやすい。またうつ病、統合失調などの精神症状がこの間、悪くなったりすることがある。

ずいぶん昔、次のような月経てんかんに遭遇したことがある。

初潮後2年目にしてある日突然、勉強していて全身の強直・間大痙攣発作が起きた。その後同様の発作が月に数回出たので、市販のアレビアチンを1日2錠服薬続けた。発作はその後もほぼ月1回、生理の前日に限って出現していた。この状態がその後長年にわたって持続するようになった。高校は1年で中退し、洋裁学校、専門学校を卒業し、ヒダントールFで発作はおさまった。しかし生理直前にならないと発作は起きないので、怠薬気味で、そのため年に数回、生理の際に発作を起こしていた。薬局の主人から結婚すれば発作がおさまるといわれたので、結婚するが、発作は続いていた。そのころから痙攣発作に加えて欠神発作が見られるようになった。これはほとんど毎月生理の直前に数回連続して起こる。この間ぼんやりして意識を失い、歩いていればそのまま20メートルほど歩き続ける。電話中に発作があるとそのまま「はい・はい」と返事して約束してしまって、後で取り返しのつかない損をすることもあった。

発作が生理と関係があるので、子宮を取れば発作がおさまると考えたので子宮および卵巣の摘出術を受けた。しかし確かに生理はとまったがその後も月1回の発作は消失しなかった。その後フェノバルビタール60mg、バルプロ酸1200mgで痙攣発作はないが、いまだ欠神が月1-2回程度はある。発作の周期も従来と比べ不整になっている。

月経てんかんの発生機序はいまだ一定しない。エストロゲン活性の増加、水分の貯留、細胞内外液の分布異常などが考えられる。女性ホルモンであるプロゲステロンが抗てんかん作用があり、生理に一致してその分泌が減少するので発作が起こると推論するものもいる。 生理と関連が高いてんかん発作にダイヤモックスが有効であるといわれているが、この薬には利尿作用もあり、水分の貯留を防ぐ意味もあるのかもしれない。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

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