129.発作の裏にある脳の病気:その18 代謝性疾患の1つ、低カルシウム血症について(2013年12月号)

代謝性疾患という言葉がある。体の中の新陳代謝がおかしくなる病気である。世界大百科事典によると、「代謝とは地球上の各種生物が外界との密接なかかわりをもちつつ,しかも自己の生命を維持するために,必要なさまざまな活動である。代謝にはエネルギーの獲得と古い細胞を新しいのに置き換えて行く働きがあげられる。言い換えると,代謝とは生物の体内で絶えまなく営まれている各種の化学反応の総称ともいえる」とある。人間は生きて行くために体温を維持したり、心臓を動かしたり、食べ物を消化したり、脳で考え事したりする時にエネルギーを使う。また体が大きくなり、皮膚も肉も骨も内臓も爪や髪が伸びるなど、古い細胞を壊して新しい細胞に置き換えて行く。この際古い細胞には死んでもらわなければならない。個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、管理・調節された細胞の自殺である。体全体のために、年老いた細胞が自ら死んで、若いものに命を譲っていく現象で、これを、アポトーシスという。こんなのがあるなんて生体は実によくできているものだと感心すると同時にゾーッとするような恐怖感も感ずる。

このような代謝性異常で、けいれん発作が合併する病気は沢山ある。電解質の異常例えば、低カルシウム血症、低ナトリウム血症、アルコール過剰摂取、アルコール離脱、肝機能障害、腎機能障害、各種薬物や麻薬中毒などがあげられる。

ここではまず「低カルシウム血症」について述べよう。身体のカルシウムは、普段骨に蓄積されている。そして必要に応じて骨から溶け出して血中に出てくる。尿に出てしまうカルシウムの量が多くなったり、カルシウムが骨から血中に移動しずらくなるとカルシウムの血中濃度は下がる。

血液中のカルシウムが不足すると中枢神経に影響が及ぶようになり、手足のしびれ、錯乱、意識混濁、けいれん、不整脈などが起こりうる。人間では副甲状腺機能低下でこのような症状がみられることが多い。

例を述べよう。

30歳台の男性である。3年前に甲状腺の腫瘍摘出術を受けた既往歴がある。ある日会社で突然けいれん発作を起こした。血液検査でカルシウム値が8.5mg(正常値は8.5mg-10.4mg/dl)と異常に低い値が見いだされた。

過去に甲状腺摘出時に副甲状腺も摘出されたので、副甲状腺機能低下になり、血中カルシウムが低下したと判断された。カルシウム剤とビタミンD投与により、血中カルシウム値は補正され、正常に戻ったが、脳波の異常は消えなかった。

その後本患者は、てんかんとして抗てんかん薬を投与されることになった。発作は1年後に再発した。この際はカルシウムの血中濃度は正常であったがなぜか脳波の異常は続いていた。その後もひき続き抗てんかん薬が投与されることとなった。このように低カルシウム血症では、てんかんに移行する場合があるので注意が必要である。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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