安心して妊娠を迎えるために~正しい情報を知り、自分に最適な薬を服用しよう~

てんかんについて

◆目次◆

A. はじめに

B. 正しい情報を知ろう
 1. 自分のてんかんは子供に遺伝しないか?
 2. 発作は大丈夫か、妊娠・出産は大丈夫か?
 3. 飲んでいる薬のおなかの赤ちゃんへの影響は?

C. 自分にとっての「妊娠に最適な薬」を服用しよう
 1. 妊娠に最適な薬とは
 2. 最適な薬への調整の仕方
  3. いつから調整を開始したら良いか
  4. 最適な薬に調整できたら

D. 終わりに

C. 自分にとっての「妊娠に最適な薬」を服用しよう

1 妊娠に最適な薬とは

図6をご覧ください。先ほどお話したように、妊娠中の強い発作は、母体あるいは赤ちゃんにリスクがあるし、抗てんかん薬には赤ちゃんへのリスクがあります。そこで両者のバランスをとった処方にすることが大切です。

図6aは、病状が軽い患者さんの場合です。リスクが低い薬を少し出すだけで発作が止まれば、それがその方にとっての「妊娠に最適な薬」です。うまくいけば薬をやめられるかもしれません。

一方、図6bのように病状が重い患者さんでは、それなりに多い薬あるいは2種類以上の薬を使わないと、発作が抑えられないかもしれません。つまり「妊娠に最適な薬」は、患者さん一人一人によって異なります。妊娠中の強い発作を抑えられ、かつできるだけ赤ちゃんへのリスクが低い処方、それがその患者さんにとっての「妊娠に最適な薬」です。

妊娠に最適な処方の考え方

2 最適な薬への調整の仕方

上述した抗てんかん薬のリスクから、医師は以下の原則で薬を調整します3)

1 なるべく安全な薬を使う (通常はレベチラセタムかラモトリギンから開始する。バルプロ酸はできるだけ避ける。)
2 できるだけ少量で
3 できるだけ単剤で

☆ バルプロ酸を使わないとどうしても発作が抑えられない場合は、できるだけ少量(1日500~600㎎以下)で使用する。一日を通した血中濃度の変化幅を小さくするために徐放剤を使う。バルプロ酸単剤・少量で発作抑制が困難な場合には単剤・多量とするより、2剤となってもできるだけ少量を目指す。

患者さん側はどうすれば良いでしょうか。どんな薬でも、効き方、副作用の出方は患者さん一人一人によって異なります。ときに、皮膚にぶつぶつができる(薬疹)、気持ちが妙にイライラする(精神面への影響)などのいろいろな副作用が出ることがありますし、発作が逆に増えてしまう可能性もあります。ですから、もしも体や心の調子が変化したら、どんなことでも医師に相談してください。医師はそれを聞いて、それが抗てんかん薬の影響かどうか考え、より良い処方に調整していきます。そのようにして医師と患者の共同作業で、ご自身の妊娠に最適な処方を目指していってください。

それから、もしも月経困難症、不妊治療などで女性ホルモンを服用することになった場合には、抗てんかん薬と女性ホルモンが相互に影響して、それらの効果が弱まる可能性がありますので、てんかんの主治医と相談しながら産婦人科の治療をすすめていってください。

3 いつから調整を開始したら良いか

妊娠に最適な薬は、いつから飲み始めればいいでしょうか。いつ妊娠するかはわかりませんし、妊娠に気が付いた時は、すでに赤ちゃんの体が作られ始めています。そこから薬を急に変えると強い発作が起こってしまうかもしれません。そこで妊娠する前にあらかじめ、最適な薬に調整しておく必要があります。

ところで最適な薬に調整するために必要な期間はどのくらいと思いますか? 1年でしょうか2年でしょうか。この期間は、患者さんによって大きく異なります。最初に赤ちゃんへのリスクが低い薬を試して発作が止まれば、それで調整は完了です。しかし、なかなか有効な薬が見つからなければ、ときに何年も要する場合があります。ですから、なるべく早く調整を始めることが望ましいです。

小児期発症のてんかんでは、先々薬をやめられるかどうかの見込みが、思春期頃までにつくことが多いです。そこで医師は、先々妊娠を迎える時期に薬を服用し続ける可能性がある患者さんに対しては、思春期頃から最適な薬に向けて調整を始めます。思春期に発症した患者さんであれば、治療の最初から先々の妊娠を考慮にいれて薬を出し始めます。

4 最適な薬に調整できたら

最適な薬に調整ができたら、もうほとんど準備は完了です。もしもまだ葉酸を服用していなければ、葉酸を飲み始めましょう。

今回は詳しいお話は省きますが、葉酸は海藻・豆・野菜・肉などに多く含まれているビタミンの一種で、妊娠したときに十分な量があると、自然流産が少ない、赤ちゃんの大奇形が少ない、知的発達が良い、自閉スペクトラム症が少ないなどのいろいろなメリットがあることが、一般の女性について確かめられています。てんかんの女性についても、これらのメリットの一部ですが報告されています。

葉酸は食べ物から頑張ってたくさん食べても、妊娠に望ましい量には不足しがちなので、サプリメントあるいは医師から処方してもらって、妊娠する前(理想的には3ヵ月以上前)から毎日服用してください。
葉酸を服用し、自分の妊娠にとって最適な薬に調整が終わったら、これでもう、いつ妊娠しても安心です。そしてめでたく妊娠したときには、ここまで読んでいただいた方は良くおわかりかと思いますが、自己判断で薬を急にやめないでください。薬をしっかり飲み続けて、強い発作を抑えながら、出産を目指しましょう。

D. 終わりに

以上まとめると、安心して妊娠を迎えるためには、(1)正しい情報を知る、(2)自分の妊娠にとって最適な薬を、医師との共同作業であらかじめ作っておく、ということが大切です。思春期の頃までには、先々の妊娠について、最初は簡単にでも、医師からお話があることが望ましいです。もしもお話がなければ、不安をうちに抱えたままにせず、遠慮せずに医師に尋ねてみてください。

そしていざ妊娠した後は、出産する病院選び、必要に応じて妊娠途中での薬の増量、出産時、授乳などいくつかの大切なポイントがあります。それらについてはいずれまたの機会にお話できればと思います。


文献
1) Annegers JF, et al. Epilepsia 20:729-737, 1979
2) Peljto AL, et al. Brain 137: 795-805, 2014
3) 加藤昌明. In(伊藤真也,村島温子 編)薬物治療コンサルテーション 妊娠と授乳, 改訂3版, 南山堂; 2020, pp.529-548 
4) Thomas SV, et al. Epilepsia 58: 274-281, 2017
5) 加藤昌明.調剤と情報 25:102-119, 2019

タイトルとURLをコピーしました