てんかんとは?(「波」2019年4月号掲載記事より その3)

最後(三つ目)は、治療その他についての記事です。


3 てんかんの治療はどうするの?

てんかんの治療の基本を一言でいうと、てんかん発作を減らすこと、なくすことです。そのためにまず行われるのが、薬物療法です。発作を抑える薬(抗てんかん薬)を飲むことです。

A 薬による治療

上に書いたように、てんかんは一つの病気ではなく、さまざまな原因を持ったさまざまな病気の集まりです。しかし原因が何にせよ、てんかん発作は、脳の神経細胞が自分勝手に興奮して過剰な電流が流れてしまうことによって起こります。どんな原因であっても、脳の神経細胞に過剰な電流が流れないようにする薬を飲むことで、発作が減ったり止まったりします。そのために、神経細胞を興奮しにくくさせたり、興奮が他のネットワークに伝わりにくくする薬がいろいろ使われます。

ただし現在の薬は、てんかんの原因そのものを治すわけではなくて、発作が起こらないように抑えるものです。そのため、ある程度長い期間(年単位)薬を飲み続ける必要があります。長く薬を飲んで発作が起こらないでいると、次第に病気の勢いが弱まってきて、薬を減らしていっても発作が起こらなくなりますし、さらに病気の勢いが弱まれば、薬をやめることもできます。ある種のてんかんのタイプは、そのように薬をやめることができます。ただし、中には長く発作が起こっていなくても薬をやめるとまた発作が起こってしまいやすいてんかんのタイプもあります。てんかんにはいろいろなタイプ(病型)や、いろいろな症候群があり、それによって発作が止まりやすいかどうか、先々薬をやめられるかどうかがいろいろと異なってきます。

てんかん全体でみると、発作が止まり薬もやめられる人が、長い目で見ると約50%くらいです。発作が止まるけれど薬を続けている人が20~30%です。残りの20~30%の人が、薬を飲んでも発作が止まりにくいです。

B 手術による治療

薬物療法で発作が十分に減らない場合、次に検討するのは外科手術です。いろいろと検査して、自分勝手に過剰興奮しやすい細胞集団(「発作焦点」と言います)がどこにあるか調べて、その細胞集団を切り取ってしまうのが「切除術」です。何らかの理由でそこが切り取れない場合には、細胞集団が過剰興奮してもそれが他のネットワークに広がらないように遮断してしまう「遮断術」を行います。

手術が特に有効なのは、「内側側頭葉てんかん」というタイプのてんかんです。特に「海馬硬化」という病変のある内側側頭葉てんかんでは、海馬あるいはその周辺を含んだ部分を切除することで、90%以上のケースで発作が止まります。ですので、内側側頭葉てんかんで薬物療法の効果が乏しい場合には、早めに手術ができるかどうかを検討することが好ましいです。他の場合でも、薬物療法の効果が不充分な場合には、外科手術ができるかどうかの検討を早めに行うことが望ましいです。

C その他の治療

薬物療法と手術療法、これがてんかん治療の二本柱になります。これらの治療でも十分な効果が得られない場合には、第三の治療として、迷走神経刺激療法があります。日本では諸外国に大きく遅れましたが、ようやく2010年に承認され保険適用が実現しました。薬物療法で発作が止まらず、しかし手術がさまざまな理由でできない、あるいは手術を行っても発作が多く出現している、という場合に検討します。

脳から出た迷走神経は、首を通って全身のいろいろな内臓につながっています。首の迷走神経に、小さな電極を埋め込み、胸の皮膚の下に小さな刺激装置を埋め込んで、小さな電流で首の迷走神経を弱く刺激し続けます。これを長く続けていると、だんだんとてんかん発作が減ってくる、という治療法です。その効果は個人差が大きいですが、おしなべてそれほど強力ではありません。大体、2年ほど続けていると、半分ほどの患者さんで発作が半分以下になる、という効果です。根治というより発作を和らげるという意味で、緩和的な療法と言われます。薬物療法と手術療法の中間的な治療という位置づけになります。利点としては、脳の手術ではないので安全性が高く、重い副作用がないこと、電気刺激をいつでもやめられることです。難治てんかんへの治療手段のひとつとして、今後少しずつ普及していくと思います。

これから先期待される新しい治療としては、ただ発作を抑えるだけでなく、原因を治すことができる薬の開発が進められています。それから、さまざまな原因に応じた個別の治療も、この先期待できる分野です。例えば、ある遺伝子の異常が原因のてんかんに対しては、その遺伝子の働きをカバーする治療などです。

なお、てんかんの治療にあたっては、日々の生活で気を付けると良いことがあります。てんかん発作は、寝不足、過労、薬の飲み忘れや自己判断による中断、お酒の飲み過ぎによって起こりやすくなります。これらに気を付けることで、発作のリスクはかなり減ります。規則的な生活を心がけることは大事です。特に、薬を急に中断してしまうと大きな発作を招く危険がありますから、絶対にやめましょう。また女性では、毎月の生理の頃に発作が起こりやすい場合も時々あります。そのような方では、そうした時期にはなるべく無理しないように過ごす、なども良いことです。

いずれにしても治療はお医者さん任せではいけません。薬の効果や副作用の出方は一人一人みな違うので、その方にとってどんな処方が一番いいかと言うのは、実際に使って様子をみていかないとわかりません。私がある薬を使い始めるときに、患者さんから「その薬は強い薬ですか弱い薬ですか?」とか「その薬は副作用が強いですか?」と良く尋ねられます。いつもそれに私はこう答えます。「薬によって強いとか弱いという違いはありません。あるのは、あなたに合うか合わないかです。そしてそれは実際に飲んでみないとわからないことです。」
ですから、出された薬をただ飲むだけではなく、その薬を飲んで体調がどうなったかをお医者さんにしっかりお話してください。お医者さんはそれをもとに、さらに良い処方に調整していくわけです。良い治療というのは、お医者さんと患者さんの共同作業で作っていくものです。わからないところは質問し、納得した上で、医師と協力しあって、一番良い治療法を見つけて行ってください。

4 てんかんと向き合っていくために

初めててんかんと診断された場合や、治療がなかなか進まない場合には、患者さんやご家族にさまざまな不安が生じます。薬の副作用はどうなのか? 発作は止まったけれど薬をいつやめられるのか? 先々の病気の見通しは? 運転免許は? 就職は? インターネットにはさまざまな情報があふれ、どの情報が信頼できるのか、なかなかわかりにくいです。そのような中で正しい情報を得て、適切に対応するために、「日本てんかん協会(波の会)」はとても有意義な場です。私は日頃の診療で、困っている方に本会の存在をお知らせしています。この「波」を読むことで、てんかんとそれを取り巻く状況についての新しい正確な情報や、同じ立場の方々のお考えや気持ちがよくわかり、てんかんと向き合っていく上で大きな力になります。さらに各種講座でより深い知識を得ることができますし、同じ立場の方々と直接に会って話しあいや交流するなど、さまざまな活動が行われています。年に一度の全国大会を始め、各都道府県に支部があり、それぞれがいろいろな活動をしています。これらを活用し、てんかんとうまく向き合っていけることを願っています。


この記事は、「波」2019年4月号に掲載されたものです。
日本てんかん協会のご厚意により掲載させていただいています。
転載はご遠慮ください。(加藤昌明)